「能増」ではない新鋭工場
自動車各社の設備投資が凍りつくなか、スズキが乗用車シェアで半数を握るインドで、新鋭工場の建設を決めた。8月にはテストコースを備える研究開発拠点の新設にも踏み出しており、すでに販売台数が日本を上回る同国で、開発から生産に至るまでの体制強化を急ぐ。
新工場は2006年10月に稼動開始した現地法人「マルチ・スズキ」の第2工場(ハリアナ州マネサール)内に建設し、11年の稼動を目指す。能力は年25万台で200億円以内の投資とする計画だ。
この計画は、先週5日付の日経新聞夕刊トップで30万台の「能力増」投資として報じられた。実際は第1工場(同州グルガオン)の老朽化した設備を更新するため、25万台分の能力を第2工場に移管・新設するもので、鈴木修会長兼社長が同日、急きょ浜松市で会見して事実関係を説明した。
マルチ・スズキは1980年代半ばから稼動している第1工場(能力約70万台)と、新鋭の第2工場(同約30万台)を合わせてざっと100万台の能力を有している。今回の新工場完成後も、能力は当面100万台規模を維持する方針だ。
◆余力のあるうちに移管して体質改善
第2工場の敷地面積は240万平方mで、第1工場の2倍と広大。今後も車両組立工場は、全体の能力を維持しながら生産性の高い新鋭設備の導入が可能な第2工場に集約していく計画である。
1年前のリーマンショックを契機とした世界同時不況はインド、中国といった自動車新興市場も例外なく巻き込んだ。しかし、政府の景気刺激策もあって伸び盛りのマーケットの修復は急速に進んできた。インドでのスズキの8月新車販売(メーカー出荷ベース)は、前年同月比29%増の約7万台と大幅に増え、ここ3か月はいずれも前年実績を上回っている。
欧州向けなどの輸出を含む同社の2009年度のインド生産は、90万台強のレベルに達する勢いだ。もっとも、100万台の能力からすればまだ余力はある。今回の新工場は、そうした余力があるうちに第1から第2工場への実質的な設備移管を図るという鈴木会長らしい作戦だ。
◆開発の現地化進めるR&D拠点も投資
完成後は同じ100万台の能力でも、マルチ・スズキ全体としての生産性は大きく改善される。自動車各社は昨年度から設備投資の大幅な計画繰り延べに着手しており、スズキも今年初めにタイやロシア新工場の建設を凍結した。しかし、インドは生命線であり「質」の改善に向けた投資に踏み出すことになった。
インド投資では、余り報道されなかったが、8月にかねて計画していた研究開発拠点の新設も正式決定した。工場が立地するハリアナ州内にテストコースとともに建設するもので、全体の施設は11年に完成する見通し。
投資額は200億 - 300億円の計画。デザインや設計、実験研究の現地化を進め、数年後にはインド市場専用車もここで開発する。スズキが半数のシェアを誇る牙城にも「世界の大手さんが事業強化」(鈴木会長)して迫って来ており、生産開始から4半世紀という先行の利を生かして迎撃の構えを整える。