135psのターボエンジンは昨今のクルマとしては全然たいしたことはないのだが、昔よく言われたリッターあたり100psゆえに、無理なく実に楽しく運転できる。普通の速度でもスポーツっぽい印象があるし、パワーが増したことでノーマルの500より長距離クルーズが楽になったのもいい。
ステアリングが遠く、足もとの窮屈なドライビングポジションは古典的なイタ車そのものだが、上質なバケットシートなどインテリア全体のレーシーでしゃれた雰囲気は、アバルトというブランドネームからごく自然に肯定できるもので、好き者には充分受け入れられるだろう。案外子供っぽくもないし、大人が乗れるこういう小さなクルマの存在意義は大きいと思う。
イタリア車が得意なのは、なにより「楽しさ」を備えたクルマ作りだ。実際、イタ車はどれも、見て、そして乗って、「楽しさ」に主力を置いて作られているように思える。今回の『アバルト500』もまさにそんなイタ車そのもの。走りもドイツ車のように寸分違わぬ正確な速さ、ではなく、けっこうルーズで危なげで、絶対的な速さより走りそのものの楽しさを重視している。タイムを競えば負けるかもしれないが、楽しさだったら勝てるという確信犯的な作りといえるだろう。
■5つ星評価
パッケージング:★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★
水野誠志朗|自動車ライター
97年に新車試乗記を中心とするウェブマガジン「MOTOR DAYS」を立ち上げ、以来毎週試乗記をアップし、現在550台を超える試乗記を公開。「クルマはやがてはロボットになる」として、走りだけでなく利便性・安全・エコの面から新たなクルマのあり方を提言している。名古屋市在住。