【デトロイト現地レポ】「大金持ちと思われている」「周囲の視線が冷たい」…UAWワーカーインタビュー

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北米トラック・オブ・ザ・イヤーを獲得したフォードの「F-150」と、フォードモーターのマーク・フィールズ・アメリカ事業担当社長(写真中央)
  • 北米トラック・オブ・ザ・イヤーを獲得したフォードの「F-150」と、フォードモーターのマーク・フィールズ・アメリカ事業担当社長(写真中央)
  • UAWの集会で配られた“Buy America”ステッカー
  • フォードが出資して建てられたDetroit Institute of Arts(デトロイト美術館)には、自動車産業に従事する労働者をたたえた壁画がある。ディエゴ・リベラ作。
  • 部屋の壁4面に描かれた絵は、自動車生産の一部始終が描かれると共に、労働者の一日も描かれる。なかには資本家批判とも取られる内容の絵も見られる。
  • 壁画の説明
◆UAW…70年を超える歴史をもつ巨大労組

最低賃金や労働時間、団結権や団体交渉権を保障したワグナー法(全国労働関係法)が米国で制定された1935年、「アメリカ労働総同盟」(AFL:American Federation of Labor)の傘下で発足した産業横断組合がUAW(全米自動車労働組合)だ。現在、その本部はミシガン州デトロイトに置かれている。

UAW は自動車産業だけではなく、飛行機や自転車、農機具などを含む産業機器の製造に従事する労働者によって組織されている。50年代から60年代にかけて米国の自動車産業の繁栄とともにUAWも巨大化していった。UAWの活動により、組合員本人だけでなく家族も含めた退職者向け医療費補助や年金などの手厚い社会保障(ベネフィット)をメーカー側に認めさせ、労働者層の生活レベル向上にも大きく寄与した。

自動車のマーケット拡大期には、これらのベネフィットはビッグ3にとって決して無駄な支出というわけではなかった。労働者の労働意欲を高め、自社製品へのロイヤリティ(忠誠心)を育むことに貢献したからだ。

しかしそのUAWに対して今、多くの米国民やマスコミから非難が浴びせられている。というのも、アメリカで働く労働者のだれもがが頭を悩ましている医療保険や年金、レイオフ時の給与補償など、UAWワーカーはベネフィットによってこれらの不安から解放されていたからだ。当事者であるUAW組合員の組合員たちは、この逆風の中で何を考え、働いているのか。フォードの工場に勤めるUAW組合員にインタビューをおこなった。


◆父には“仕事に対して絶対に手を抜くな”と叩き込まれた

Sean(ショーン:仮名)とJohn(ジョン:仮名)は、デトロイト近郊にあるディアボーンのフォード工場で生産ラインの監視業務に当たっている。二人ともUAWの組合員であり、また彼らの肉親もフォードの工場で働いていた過去を持つ。

Seanはケンタッキー州の出身で、大学卒業後、フォードで16年間働いている。

折しもデトロイトショーでは、フォードの『F-150』がトラックオブザイヤーに選ばれた。F-150はSeanが働くディアボーン工場で組み立てられている。 「現場では“取って当然”という雰囲気だった。いいものを作っているという自信はあったからね」とSeanは語る。

Seanによれば、ディアボーン工場は2008年は6月から8月まで一時操業停止(レイオフ)したという。UAWワーカーには Job’s Bankという制度があり、レイオフ中も85%のサラリーが補償される。実は09年に入ってからも2月から3月にかけてレイオフの予定があったが、最近になって取り消されたという。「ガソリン価格が下がり、大型車の売れ行きが良くなったことが理由かもしれないね」。

Seanの祖父は農家だが、父はフォードのワーカーとしてケンタッキー、ミズーリの工場で働き、いまはリタイアの身。「父と同じ仕事に就いたことは、誇りに持っている。父には、“仕事に対して絶対に手を抜くな”と叩き込まれたよ」。

「自分の子供もフォードで働かせたいか」とSeanに尋ねると、「私たちは父や祖父の代からフォードから得たサラリーやベネフィットによって生活し、子供を育ててきた。そしてそれはこれからも変わらないだろう。もし次にクルマを買う機会があれば、迷いなくフォード車を買う。子供がどこで働いたとしても、クルマを薦めるならば間違いなくフォードだろうね」。

Johnは父だけでなく祖父や2人の叔父もフォード工場で働いていたという、文字通りの“フォード・ファミリー”だ。「Seanとは毎日職場で顔を合わせる仲だよ」と笑う。

フォードのクルマ作りにたいする思い入れを聞くと、2000年に起こったフォードのファイアストーン問題までさかのぼって語ってくれた。「ファイアストーン問題が起こり、(ジャック・)ナッサー(フォードの元CEO。在任1999-2001年)が責任を取り辞任した。クルマをビジネス化してランドローバーやボルボなどを次々と買収したナッサーがやめることで物作りを重視するスタイルに変わった。ビッグ3の中では、フォードがいち早くユーザー本位の調査をおこなって品質向上に取り組んだんだ」。


◆ 「UAWというだけで大金持ちと思われている。実際はそんなことないのに」

UAWの問題について話が及ぶと、2人の表情はそろって厳しくなった。Johnは「自動車工場は、うまくいっていれば管理する側が評価され、失敗すればワーカーの責任だ。経営者はいまワーカーに責任をなすりつけ、UAWを叩き、生産調整と高賃金を名目にワーカーのサラリーとベネフィットを減らそうとしている」と経営陣に否定的だ。

一方のSeanも「自動車のことを知らずに経営を握る株主も株主だが」と前置きした上で、「アメリカの企業を維持するために、なぜ政府はお金を出さないのだ」と憤慨する。

ビッグ3の救済に反対する共和党は、上院議員のリチャード・シェルビー(アラバマ州選出)を筆頭に、「救済法案を通すのであればビッグ3はすぐにでも日系メーカーの賃金水準までカットすべき」との主張を繰り返している。幾度かの交渉で、UAWはメーカーに対して譲歩し、新規雇用者の労務コストを1/3程度まで圧縮することに同意した。

労務コストのカットは新規雇用者だけでなく、現役の労働者にも向けられている。「UAWも交渉の仕方がおかしい。工場労働者はサラリーもベネフィットも一方的に減らされている」(Sean)。“外”からは「特権に固執しようとする頑固者」のレッテルを貼られているUAWだが、“内”の視点では「いざというときに自分たちを守ってくれない存在」なのだ。

そして、“外”からのUAW非難の矛先は、加盟労働者にも向けられる。Johnは「UAWに入っているというだけで大金持ちと思われている。実際はそんなことないし、とても心外。UAW組合員としてつらい気持ちになる」と語り、Seanも「フォードのUAWワーカーであると言うことにたいして、周囲の視線が冷たい。皆“赤ん坊が泣いてもフォードだから”(放っておいてもいいだろう)と考えているんだ」 と心を痛める。

「1時間あたりにかかる労務コストは、ビッグ3のUAWワーカーは76ドル、日本メーカーは約58ドルと言われているが、この差額は現役世代である自分たちのためではなく、デトロイトで働きリタイヤしたUAWワーカーのために支払われているものだ。我々が実際に手にしている時給は実際は20ドルあまりで、ビッグ3以外の工場労働者と大差はないんだ。言われるほど豊かな生活はしていないし、比較の仕方が納得いかない」とSean。


◆失われつつあるデトロイトの結束

かつてデトロイトには親子代々に伝わる70年も連綿と続くロイヤリティが存在し、これまではビッグ3もベネフィットという形で応えてきた。いやむしろ70年分のベネフィット が、ロイヤリティを築きあげてきたと言うべきかも知れない。

しかしいまの状況はどうか。父を育て、自分を育ててくれたフォードへのロイヤリティと、モノ作りへの自信は確かにいまでも垣間見える。だが、救済を容易に決めようとしない政府と失策を繰り返す経営陣、ふがいないUAWへの不満と不信、そして自身がUAWであるということに対する周囲の冷たい視線と後ろめたさ。こうした感情がない交ぜになって、ワーカーたちは孤立感を強めている。

かつての繁栄を支えてきた“チームデトロイト”の結束と、その結束の源であったロイヤリティはいま大きく揺らいでいる。

《取材:三浦和也 Kazuya Miura / 北島友和 通訳:大野慎也 Shinya Ono 執筆:北島友和 Tomokazu Kitajima》
《北島友和》

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