今年6月、総務省の情報通信審議会が「電波の有効利用のための技術的条件(諮問第2022号)」のうち、一部の答申を発表した。700MHz帯では、ITSが割当先として残された。
◆ITSが700MHz帯・10MHz幅ITSで獲得
今年6月、総務省の情報通信審議会が「電波の有効利用のための技術的条件(諮問第2022号)」のうち、昨年から注目が集まっていた700MHz帯の行方を含む「VHF/UHF帯における電波の有効利用のための技術的条件」から、一部の答申を発表した。周知のとおり、情報通信・放送ともに利用しやすい700MHz帯(UHF帯)をめぐっては、放送業界、通信業界、自動車業界(ITS)が周波数の配分を求めており、その行方が注目されていた。2012年に向けては大きく周波数の配分が変わるが、特に社会的・ビジネス的に影響力の大きいVHF/UHF帯の結果が一足早く公表された形だ。
答申の結果を見てみよう。
まず、「何がなんでも欲しい、最も魅力的な帯域」(通信業界関係者)と言われた700MHz帯は、可能なかぎり大きな帯域を携帯電話などの電気通信で利用することになった。その配分量は40MHz幅なので、現在モバイルWiMAXや次世代PHSでの利用をめぐって新聞各紙を騒がせている2.5GHz帯のワイヤレス・ブロードバンド・アクセス(WBA)での配分量に次ぐ広帯域だ。この帯域幅を何社で分配するかは不分明だが、仮に2.5GHz帯と同じく2社に割り当てるとしても、数十Mbps級のデータ通信サービスが実現できる。
同じく700MHz帯では、ITSも割当先として残った。配分量は10MHz幅。主に車車間通信を想定しており、現在、国交省主導で進む5.8GHz帯DSRCを用いた路車間通信と補完しあう用途になりそうだ。700MHz帯は電波特性がよく、交差点や都市部などで遮蔽物の影響を受けにくいと予想されるので、車車間通信での使い勝手は悪くないだろう。
モバイル向け放送はUHF帯は割り当てられず、VHF帯に2か所の割当枠が設けられることになった。その配分量は18MHz幅と14.5MHz幅で、現在はその用途をめぐって「MediaFLO」と「ISDB-T(ワンセグ)拡張方式」を推す企業グループが競争をしている。
◆海外市場との連携は図れるか
電波はそれぞれの国の「国民の共有財産」であるが、それを使った製品はグローバル市場で連携する。特に自動車産業にとっては、クルマの機能進化やサービスが、海外市場に展開できるかが重要だ。
その視点で今回の答申を見ると、結論は「海外市場との連携は難しい」ということになる。
なぜなら、ITSという視点で、700MHz帯をクルマ専用で使う国は今のところ存在しないからだ。路車間通信は各国のITSで進んでいるが、そこで使われるのは5.8 - 5.9GHz帯のDSRCベースの技術であり、一部では2.4GHz帯のWi-Fi活用のソリューションはある。今後で見れば、2.5GHz帯のモバイルWiMAXもクルマ利用の俎上にのぼりそうだ。しかし、「700MHz帯でクルマ専用の通信インフラ」というシナリオはない。
特に日本の自動車業界にとって重要な北米市場では、700MHz帯は現在「MediaFLO」が利用しているほか、新たに携帯電話事業で使われる予定だ。すでにGoogleなど複数の企業が、700MHz帯獲得に向けて動き出している。北米でみれば、700MHz帯は「モバイル向けテレビ」と「携帯電話」に落ち着きそうである。
日本において、700MHz帯の一部をITS分野が獲得したことは、「日本のITS」の進化においては意義深く、メリットが大きい。しかし、その一方で、そこで作られたアプリケーションやサービスが「海外市場への輸出ができるか」の部分に不安が残るのも事実である。2012年以降の700MHz帯の割り当てでITSが入ったことは、車車間通信技術の実用化や普及への追い風にはなろう。だが、その先で重要になるのは、その先行者利益を“日本だけの閉じたものにせず、日本の自動車産業のビジネスに結びつけられるか”である。今後の動向を、期待を持って見守りたい。