道路の開通と誘発交通
道路が開通すると便利になる。便利になると、自動車を使う機会が増え、交通量が増える。これを誘発交通と呼ぶ。便利になり新たな交通や交流が生まれることは、道路など社会資本を整備する目的のひとつであり、別に悪いことではない。
だが、環状道路やバイパスなど、渋滞対策や温暖化対策として道路を整備する場合、やや事情が異なる。誘発交通が多いと、渋滞は解消せず、CO2も減らない。このことから、道路の整備は、渋滞や温暖化対策としてあまり有効ではない、という意見もある。
◆環状道路は、エコか?
今回、首都高速王子線の事例調査(※)をした目的のひとつは、環状道路は、エコか?、という点を、詳細なデータをもとに、なるべく推定や仮定を置かずに、検証することであった。
開通前と比較し、交通量の増加は僅かに留まり、首都高速の利用増と渋滞が減ったことで、東京23区全体のCO2は2万−3万トン削減された。
筆者は、東京は環状道路が必要だと思う。東京は、都市規模に対し、あまりに環状道路が貧弱だ。ある程度、経路の選択肢がないと、交通集中を分散させることは不可能だと思うからだ。今回の結果は、“環状道路は、たぶん、エコだ”という筆者の想いを、支持してくれた。
他方、都市交通と誘発交通の問題は、周辺の土地利用をはじめ、国や地域の経済、社会の成熟度などとも関係するため、ひとつやふたつの事例で、結論づけることはできない。また、長期的な評価も必要だ。こうした、道路の整備効果や影響に関する“点検”は、全国で継続的に実施し、データをもとに議論を進めていかなければならない。
◆ITをうまく活用
今回の事例調査のもうひとつの目的は、低コストで精査が可能か、検証することであった。調査の元になった渋滞情報のデータは、1時間毎、上下線別、数百メートル単位の計測だ。これをイチから調べていては、膨大なコストがかかる。
しかし渋滞情報は、機械による常時観測で、既に情報収集の仕組みができている。新たに人と手間をあまりかけることなく、高精度のデータが収集されているのである。従来からの路側での実査やアンケートでは、常時観測は、事実上、不可能だ。
道路交通に関する調査は、ITによる自動収集を本格的に検討すべき時期にきている。今回の事例は、その具体的な提案としても、意義があると思う。
※首都高速王子線の事例調査については、「交通管制データを活用した交通対策によるCO2削減効果の事後評価」、紀伊ほか、土木計画学研究・講演集(2006)をご参照ください。