「レクサス『IS』を開発するにあたって、あえてベンチマークとなるクルマは設定しませんでした。ベンチマークを設定すると、どうしてもそのクルマの方向性に近寄ってしまいますから」
「ISはレクサスの走りを象徴するモデルとして、理想を追い求めて開発を進めました。その結果、ライバルとされるクルマにはない、レクサスISならではの走りが実現できたと思っています」と語るのはレクサスISのチーフエンジニアの福里健さん。
実際にレクサスISを走らせてみると、福里さんの話している意味が理解できた。もっともパフォーマンスの高い、IS350バージョンSに乗ってワインディングを走ると、今まで感じることのなかったフィーリングに遭遇したのだ。
まず驚いたのは静粛性の高さ。ハイパフォーマンスセダンを売りにしているので、排気音を大き目に設定しているのかと思ったが、速度を上げても室内は静寂が保たれていた。また、18インチタイヤを装着している割には、乗り心地もハードではなく、高級セダンばりの快適性を実現していた。
それだけならば、ただの高級セダンになってしまうが、ISの優れているところはフットワークのよさだ。あまりにも静かなため、何気なくコーナーリングしてしまっていたのだが、その速度が意外にも高く、耳を澄ませばかすかにタイヤが鳴いている。ISは、それぐらいの高い速度域まで、まったく恐怖感を感じることなく、ワインディングを走ることができるのだ。
BMWならば、もっとドライバーに走りを意識させ、メルセデスならばそこまで速く走る気にはさせないだろう。この不安を感じさせずに速く走れる感覚は、確かにレクサスISならではのものだ。
福里さんは「ISは一部のウデのある人が乗って楽しいクルマではなく、普通の人が普通に乗って楽しめるクルマに仕上げています。静かで速いのが、レクサスのドライビングスタイルです」とコメント。確かにレクサスISは、トヨタの走りの方向性を高いレベルまで磨き上げ、ほかのプレミアムスポーツセダンにはない、独得の走りを手に入れている。(つづく)