28日夜に東京都大田区の東京国際空港(羽田空港)で起きた暴走車の侵入事件では、こうした事件の発生を警察や国土交通省が「全く予想していなかった」ことがその対応からも伺える。
警察や国交省の発表によると、最初に車両が強奪されたのは28日の午後7時10分ごろ。それから男が国際線ターミナル近くの侵入地点に至るまで約13分を要したが、厳重な警戒態勢が敷かれていたにも関わらず、この間に警察は男がどこに向かったのかを把握することすらできなかった。
国際線ターミナル近くでは不審な男に気づいた警官が職務質問しているが、男を制止することができず、さらには警官の目前でフェンスを突き破ったことも明らかになっている。しかも、空港内の警備が国交省管轄であることもあり、一番近くにいたはずの警官はその後の追跡を躊躇、男の逃走を許した。
国交省の東京空港事務所が事態を把握したのは、侵入から4分が経過した午後7時29分。しかもこの一報は「リムジンバスが脱輪事故を起こした」というもので、この事故の原因が車両強奪による暴走と判明したのは、それから3分後にバス会社から「男に脅されてバスを強奪された」という通報を受けた時点となる。
この頃に男は別のクルマを奪い滑走路付近を暴走していたと推測されているが、空港事務所がC滑走路への着陸を見合わせ方針を決めたのは午後7時35分、実際に滑走路が閉鎖されたのは午後7時44分だという。
事態把握から閉鎖までの15分間、C滑走路にはおよそ3分に一度のペースで合計5機の飛行機が着陸していた。航空機とクルマが接触、衝突するという事態は避けられたが、これは運が良かったと表現するしかない。
国交省では事件翌日の29日に「車両で空港内に侵入する事態は想定していなかった」と説明し、男が突破したフェンスについては「工事用に仮設されたものであり、強度が不充分だった。また、侵入通報用の赤外線センサーも作動していなかった」と、盲点があったことについては認めている。
警察では「今回の犯行については、現時点までの状況ではテロ目的の可能性は低いとみている」と説明しているが、警察官が侵入を制止できなかったことや、その後の連絡が遅れた点については「緊急に検討しなくてはならない問題」とコメントしている。