【放談会2002 Vol. 12】財界再生--奥田がしなくて誰がやる!?

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三浦 ホンダの宗国会長が日本自動車工業会(自工会)会長に就任しました。来週には経団連と日経連が統合され、トヨタの奥田さんが会長に就任します。財界活動という視点で自動車メーカーを見てみたいと思います。

安田 広く財界という意味では、企業の利益を超えた国益という側面があります。国益とは、国際社会のなかでそれぞれの国が抱えるものです。日本には日本なりの国益があり、それを考えて政治を行うべきであり、経済政策もそうです。企業の経営も、国益と無縁であってはならないと思うのです。

牧野 まったく同感です。国家の多国籍企業、グローバル企業などど言ってみても、国家と無縁で存在することは不可能です。日本の企業、日本で生まれた企業が、日本という国の国益を考えないのはおかしい。最近は国益と企業の利益が合致しないことも多いとは思いますが、では、アメリカが唱えるようなグローバリゼーションが正義なのか。そうとは思えません。

安田 そのグローバリゼーションという言葉に踊らされて、覚悟もできていないのに日本版ビッグバンなんてやっちゃうから、おかしくなった。日本経済がおかしくなり始めたのはそこからです。そこをもう一度考え直さないといけない。ムーディーズがトヨタを格付けを下げたとき、奥田さんは怒ったけど、日本の経営者は見習うべきです。

牧野 間違ってもテレビカメラの前で「真摯に受け止めて」なんて言ってはいけなませんね。格付け会社なんて、しょせんは民間の一企業です。そこが言うことを金科玉条のように扱う必要などありません。

安田 株価が本当にその企業の業績を反映しているとは思えませんからね。投機的な側面のほうが株価への影響が大きい。グローバリゼーションの悪影響です。

牧野 企業の中もそうです。たとえば外資が入って来た自動車メーカーでは、外国人組は社内の会議を「英語でやる」と言い出す。自分たちの分からない言語で話をされるいのがイヤなんです。何か情報を隠されているのではないか、と。だったら、自分が信頼できる人間に同時通訳でもやらせればいい。逆に、外資を受け入れた側では、会議を英語にすることがグローバリゼーションなんだと勘違いしている人もいる。

安田 小泉総理が構造改革を掲げたものの、1年たっても何も変わっていない。その一方で構造改革と関係がないとんでもない法案を成立させようとしている。そんな中でも、日本という国が何とかやって行けるのは、企業がしっかりしているからです。中小企業は小泉改革や銀行のおかげで散々な目にあっているのだけれど、まだ日本はつぶれちゃいない。ボクが言いたいのは、財界というものがもっとしっかりしろ、責任を自覚しろ、ということです。

三浦 日経連と経団連が統合する新しい団体、日本経済団体連合会の会長に着くトヨタの奥田さんに期待するところは大きいですか?

安田 奥田さんは最後の切り札です。彼は自動車業界の代表ではなく、もっと広い視野で日本を見ている。

牧野 だからこそ、自動車業界が奥田さんをサポートしなければならないんです。モノ作りを代表する業界であり、自動車がこけたら終わりです。すべての産業が自動車にかかわっている。何度も言いますが、ITじゃ1億3000万人を支えられない。自動車業界はそこをしっかりと認識すべきです。

安田 かつて豊田章一郎さんが経団連会長になったときが、財界の大転換だったのです。産業構造が変わり、「鉄は国家なり」と言われた時代が本当に終わり、消費者に直接商品を提供する企業のトップが財界のトップになった。そのトヨタが大企業病に陥ったとき、大改革を行ったのが奥田さんです。そういう実績を持った人が、まさに財界改革をしなければならないこの時期に登場する。

牧野 ただ、財界の中に抵抗勢力がいやしませんか? 自動車はまだひよっこ扱いされているような気もします。

安田 難しい面もあるでしょうが、奥田さんにはぜひやってもらいたい。日本の産業界を国益に沿って団結させる。政治に対してもきちっとモノを言える財界にする。それは業界への利益誘導ではなく、本当に日本を再生するためのモノ言いです。

牧野 ただ、「ウチさえ儲かっていれば国益なんて関係ない」と考える企業もあるはずですから、そこで産業界が本当に大同団結できるのか。絶対にやらなければならないことだと思いますが……。

安田 かつての日米自動車摩擦では、政府間の交渉は自動車産業の実態とかけ離れたところで行われてしまった。将来、もし似たような衝突があるとすれば、それは財界同士で直接交渉し、問題を解決すべきです。アメリカの財界はそれだけの力を持っているが、残念ながら日本にはない。奥田さんの頭の中にも、そういう構想はあると思いますよ。

牧野 政治がらみになると泥沼化しますからね。政府にも行政にも責任を取る姿勢がないから、政治問題化した時点で日本は負けです。中国・瀋陽の領事館事件を見れば、すでに日本の行政機構は破たんしている。

安田 中国だってわからないんですよ。いま、中国は自動車産業が発展期を迎えて、日本の自動車業界にとっても無視できない国になった。しかし、政治的な思惑で中国の見方は変わってくる。中国との経済活動の問題は、実際にかかわっている企業・業界がしっかりと対応しなければならない。国とはべつの、経済交流ルートがあってしかるべきです。

牧野 それだけの決意がある企業が財界をリードし、全体を引っ張って行かないとダメですね。私利私欲ばかりが優先して、国益などまったく顧みない企業のほうが数としては多いわけですから。その一方で政治には、改めて日本という国家のグラウンドデザインをやり直して欲しい。それと国民です。いまこそ参政権という権利をみんなが行使すべきです。すべてはスィンク・グローバル・アンド・アクト・ローカルです。広い視野で物事を考え、実行はまず自分の身のまわりから、です。改革は政治家や官僚が行うのではない。国民にゆだねられたものなんですから。

《レスポンス編集部》

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