これから中国市場はどうなるのか?日系メーカーの勝ち筋は?…上海工程技術大学 湯進氏[インタビュー]

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来たる6月27日、オンラインセミナー 【Season2】中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイトvol.2 「急速なEVシフトが進む中国新車市場と日本企業の実態」が開催される。

セミナーに登壇するのは、上海工程技術大学 客員教授/ 中央大学 兼任教員の湯進(タンジン)氏。ビジネスメディアで健筆をふるう湯進氏の名前をご存知の読者も多いことだろう。

セミナー当日はQAセッションも設けられ、モデレーターのナカニシ自動車産業リサーチ 代表 アナリストの中西孝樹氏とともに、リスナーを巻き込んだ専門的なディスカッションに参加できる機会となる。セミナーの詳細・申し込みはこちらから。

湯進氏にセミナーの見どころを聞いた。(発言は個人の見解であり、所属する組織とは関係ありません。)

■日本車は中国市場で売れ続けるのか

中国自動車市場において、中国メーカーの躍進が著しい。特に昨年から今年にかけて、その勢いはますます増しているようだ。湯進氏はこのような状況をどう分析しているのだろうか。

「昨年、日本の自動車産業が電動化に遅れをとっているという議論が活発でした。中国が電動車へのシフトをどこまで成功させ、ガソリン車が本当に過去のものになるのかという問いが中心でした。」

「しかしながら、今年の話題は異なります。いまの重要な疑問は、「日本車は今後も売れ続けることが可能なのか?」という点に移っています。今年に入り、日本車の中国市場におけるセールスは大幅に減少しており、各社が深刻に受け止めています。」

「日本車のセールス低下にはいくつかの要因があります。その中でも特に注目すべきは、日本ブランドの力の低下と中国の電動車の競争力の向上です。日本のガソリン車と中国の電動車との競争が激化し、中国の電動車がより魅力的な選択肢となりつつあります。」

「中国の電動車市場の拡大は確定的なものとなっています。2020年までに約100万台だった中国の新エネルギー車の販売台数は、昨年には600万台、今年は800万台を超える見込みです。政策推進と補助金による販売促進だけではなく、魅力的なモデルの提供により、ガソリン車との競争力を向上させてきたからです。」

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「2020年のテスラの上海工場の稼働とモデル3の生産開始がきっかけとなり、新興EVメーカーもソフトウェアに重きを置く車作りに力を注いで、高級EVブームが起きました。また、100万円以下のEVの登場や、中価格帯のプラグインハイブリッド車の増加も見られます。」

■BYD「秦」による大きなインパクトとは

中国市場の電動化が進む中で、特に日系メーカーに大きな影響を与えたモデルがあるという。BYDのミドルサイズセダン「秦」PHEVだ。

「BYDの秦 PHEVが、中価格帯の車種として登場しました。これは、日本車や他のガソリン車との競争に火をつけるものでした。一般的にPHEVは、2つのモーターとバッテリーを搭載しており、そのコストは50万円程度かかるものです。しかし、BYDの「秦」は、カローラよりも2割安い価格でPHEVを提供しました。これは価格破壊ともいえるもので、日本車、そしてガソリン車全体の競争力を一気に脅かしました。」

「過去の電動車市場は、テスラを含む高級車市場で600万円以上の車種、宏光MINIEVなど廉価車市場が主流で、日系メーカーには大きな影響はありませんでした。日系メーカーは高級車市場においては弱い立場にあります。アキュラは今年撤退し、インフィニティは年間1万台に満たない販売数です。レクサスは18万から20万台と健闘していますが、全て日本からの輸入車であり、市場全体としては小さい存在といえます。」

「その一方で、日本のメーカーは100万円以下の低価格車を作ることが困難で、その結果、中間価格帯、いわゆるミドルクラスの市場で勝負をしなければなりません。」

「電動化シフトの構造上、最上層と最下層の市場で電動化が進んでいますが、ミドルクラスの市場での電動化は難しい課題となっています。なぜなら、バッテリーだけでも80万から120万円ほどのコストがかかるため、ガソリン車との競争が困難だからです。」

「その中で、BYDが安価なPHEVを出したということが大きな衝撃でした。日産のシルフィー、トヨタのカローラはもちろん、米国やドイツブランドにとっても同様です。BYDの秦PHEVにはそれほどのインパクトがあったと言えます。」

「日本車が秦PHEVに対抗するのは、厳しいと言わざるを得ません。秦PHEVは新エネルギー車なので、購入税10%が免除になりますが、いっぽうで250万円のカローラを買うと、25万円の購入税の支払いが必要です。」

「そして、8年間使うと仮定すると、ガソリン代と電気代の差額で50万円の差が出ます。さらに、秦PHEVは車両価格が2割ほど安いので、それらを合計すると約100万円の差になります。200-300万円の車両でそれだけの差がつくと、勝負になりません。」

「秦(PHEV+BEV)は現在月間4万台販売されており、中国乗用車市場で最も売れている車種になっています。」

■日系メーカーの勝ち筋とは

中国メーカー全体の底上げが進む中で、日系メーカーにとって強力なライバルが登場し、今後の日系メーカーの勝ち筋をどう考えればいいのだろうか。

「日本の自動車メーカーは今、大きな課題に直面しています。そのシェアは2020年の23%から、わずか3年で15%へと大きく減少しました。2020年までは、トヨタは10年連続で成長を達成していましたが、わずか3年間のコロナ期間でトレンドが変わってしまったのです。トヨタは挽回の余地がありますが、日産はすでに下降トレンドに入っています。ホンダも下降トレンドに入る瀬戸際です。マツダは非常に厳しい状態ですし、三菱はすでに生産停止に追い込まれ、大きな決断を迫られる間際です。」

「これからの日本車の対策は、ハイブリッド車のコストダウンに工夫する一方で、コストパフォーマンスを維持しながら魅力的なBEVを作ることでしょう。日本車の強みは200万円から500万円という価格帯にあるため、中国の消費者のニーズをしっかりと研究し、コストパフォーマンスの良い中価格帯の車両を開発することが求められています。」

「特に二つのポイント、コストパフォーマンスの向上と乗車体験の改善によって競争力を維持することが必要です。」

「コスト面では、トヨタがBYDとの合弁企業を設立し、よりコストパフォーマンスの高い車両を開発するという試みをしています。そして乗車体験については、充実したHMIや音声認識AI、コネクテッド機能を標準装備にすることで、より高品質なドライブ体験を提供することです。」

「中国市場で成功を収めることができれば、グローバルでも成功する可能性が高まります。今、中国で起こっていることは、3年後の世界でも起こりうることです。」

「またガソリン車のブランドイメージからの脱却も重要な課題となっています。中国の大手自動車メーカーは新エネルギー車のための専門子会社を設立しています。これは新エネルギー車がガソリン車とは別のブランドとして認識されることを意味し、日本の自動車メーカーもこのことをよく検証すべきでしょう。」

■BYDは、昨年からさらに倍増へ

中国メーカーの躍進を象徴するBYD。今年も昨年の倍増という意欲的な計画を立てている。

「BYDのような企業が競争力を持つ理由の一つには、バッテリーの内製化が挙げられます。これにより、コストを大きく削減できるだけでなく、品質の高い製品を提供することが可能となります。また、技術者出身の王氏のリーダーシップのもと、現実を見据えた戦略を進めることで、着実にビジネスを成長させています。」

「そしてBYDの今年の戦略はグローバル展開です。これまではEVバスをグローバルに販売していましたが、これからは乗用車を展開していきます。昨年のBYDの販売台数186万台のうち、海外で販売した台数は5万台に過ぎませんが、今後タイに16万台生産の工場を設立し、ベトナムやヨーロッパにも新工場の計画があります。それらを含め、昨年の販売台数の倍増にあたる350万台の販売目標を立てており、その達成に向けて努力しています。」

「BYDの強さの一因としてPHEVの開発に注力してきたことが挙げられます。2003年からPHEVの研究を始め、2008年から販売を開始しました。長い時間をかけて研究と開発を進めてきた結果、現在のPHEVの競争力につながっています。」

■これから中国市場はどうなるのか

ビジネスを考えるときには、ワーストシナリオを考えることも必要だろう。湯進氏はこれからの中国市場はどのように動いていくと考えているのか。

「2023年は、中国の自動車メーカーが市場シェアで史上初めて50%を超えることになりそうです。4月時点ですでに52%に達しています。この傾向が続けば、中国製車両のシェアは60%を超える時代も近いでしょう。」

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「外資の自動車メーカーにとっては厳しい状況のなか、フォルクスワーゲンの動きが活発です。ソフトウェア子会社のカリアドチャイナを設立、さらにAI向けICチップを開発する中国のホライゾン・ロボティクスと合弁を組むなど、中国事業で史上最大の投資をしています。」

「加えて、中国の中堅自動車メーカーJAC(安徽江淮汽車)に出資して75%の株式を取得し、JACフォルクスワーゲンを設立、自由に自分たちの戦略を進める機会を得ています。」

「トヨタとBYDの合弁企業は、価格競争力のある車を生産するひとつの機会になる可能性があります。中国でコストを抑えながら、バッテリーなどのコア部品を調達し、それ以外の裾野産業も中国には育っていますから、中国でサプライチェーンを整えることもできるでしょう。」

「このような動きは、中国市場の拡大と共に自動車メーカーが多様化し、競争が激化する中で、市場シェアを確保し、さらなる成長を狙う戦略の一部と言えるでしょう。」

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セミナーではそのほか、日系メーカーの勝ち筋についての深掘りや、外資メーカーが中国を生産拠点として輸出を進める新しい座組みなど、湯進氏の幅広い賢察を聞くことができる機会になりそうだ。セミナーの詳細はこちらから。

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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