東京メトロ(東京地下鉄)は10月28日、東京都江東区にある深川車両基地で、線路設備モニタリング装置を搭載した東西線15000系「ぱとれーる」のラッピング車両を報道公開した。2026年度下期に1編成を導入し、10月31日に走行を開始する。同社が自社車両に同装置を搭載するのは初めてだ。
●新技術の導入だけではない、もうひとつの狙い
営業運転中に線路の状態を計測し、保守業務の効率化と安全性向上を図る。車体にはシンボルキャラクター「もぐぱくん」を描き、軌道保守の仕事への理解を広げ、将来の担い手確保にもつなげる。
東京メトロ工務部軌道課の新田裕樹課長補佐は、「単に新しい技術と装置を導入したというところではなく、地下鉄を支える仕事の価値を、より多くの方に知っていただくための取り組み」と、プロジェクトの狙いを説明した。
線路設備モニタリング装置。装置下の赤い線はレーザー●測定装置を営業車両に搭載
線路設備モニタリング装置は、営業車両の床下に搭載したカメラやレーザーで、走行しながらレールやまくらぎなどの状態、線路のゆがみを計測・記録するものだ。人が現場で行なってきた点検の一部を自動化し、現場作業の削減や夜間作業の効率化を可能にする。
装置は主に2種類で構成する。「軌道材料モニタリング装置」は、形状を測るカメラと物体を鮮明に写すカメラを組み合わせ、レールやまくらぎ、レールを固定する締結装置などを確認する。「軌道変位モニタリング装置」は、レーザーで線路のゆがみを計測し、結果をリアルタイムでクラウドへ送る。
新田氏は「皆様が乗っている列車そのものが、線路の健康診断を行なうことができる」と表現した。そして現場で目視していた設備の状態を、事務所で画像から確認できるようになるわけだ。
装置は15004編成の15404号車に搭載される。15004編成が車両点検で運用から外れる際には、装置を別の編成に移設して、線路の点検は続けられるそうだ。
線路設備モニタリング装置
●状態基準保全(CBM)への転換
新装置による計測・点検は、毎日4~5往復の走行で行なう。カメラ画像はデータ容量が大きく、通信で送れないため、車両のメモリーに保存する。レーザーによる計測データは毎日取得し、カメラ画像の確認は2週間に1回行なう。
従来は検査車両による検査が年に1、2回程度、徒歩による巡回点検が月3回だった。営業列車を活用して高頻度にデータを取得することで、一定の周期を前提とした補修から、設備の状態に応じて補修する状態基準保全(CBM)への転換を進める。日々の変化から劣化傾向を把握し、必要な箇所を適切な時期に補修することで、安全性と生産性の向上をめざす。
導入路線も順次拡大する予定で、2027年度に南北線、2028年度に半蔵門線と有楽町線へ導入される。東京メトロ線では、すでに千代田線でJRが、半蔵門線、南北線、副都心線で東急電鉄が所有する装置を活用し、データを取得している。千代田線と副都心線、東西線の直通先である東葉高速線での自社装置の運用も、将来の検討対象とする。いっぽう、銀座線、丸ノ内線、日比谷線は車体が小さく、現行の装置を搭載できないため、小型化の研究を進めているという。
TBMからCBMへ●技術や仕事の存在を知るきっかけに
「ぱとれーる」は、パトロールとレールを組み合わせた名称だ。床下の装置は利用者の目に触れにくいため、車体にラッピングを施し、技術や仕事の存在を知るきっかけをつくる。ラッピングの対象は、先頭・最後尾の1号車と10号車、装置を搭載する4号車だ。
シンボルキャラクターの「もぐぱくん」は、「走りながらレールを見守る相棒」をテーマにした一般公募で選ばれた。地下で活躍するモグラがモチーフで、東西線カラーのメガネをかけ、鼻からレーザーを出してレールの小さなゆがみを確認する。手足は車輪をイメージしたデザインだ。
制作者のツナシマハジメ氏も説明会に出席。「日々安全を守っているというコンセプトで、土の下で活躍するモグラをモチーフにデザインしました」と制作意図を語り、「電車好きの方々にはもちろん、一般の方々にも愛されるキャラクターになってくれたらうれしい」と期待を寄せた。
もぐぱくん●軌道保守を担う人材の不足
取り組みの背景には、軌道保守を担う人材の不足がある。新田氏は国勢調査に基づき、全国の線路工事従事者が減少傾向にあり、約4割が55歳以上だと説明した。鉄道会社だけでなく、工事を担う協力会社を含む業界全体の課題で、インフラの老朽化も進む中、生産性向上と担い手確保が急務となっている。
軌道保守は終電後の限られた時間に行なう作業が多く、熟練技術者に頼る部分もある。一般の人が仕事を目にする機会も少ない。東京メトロは、計測の自動化によって人が高度な判断を要する業務に集中できる環境を整えるとともに、仕事の魅力を伝える活動を進める。
新田氏は「新技術導入だけでは、やはり担い手不足の根本は解決できない」と指摘。「知る、興味を持つ、理解する、そして将来の進路として選んでもらう」という流れを生み出したいとした。
東京メトロ・ぱとれーる(15000系15004編成)●グッズも登場予定
今後は「ぱとれーる」と「もぐぱくん」を活用したグッズや情報発信、教育コンテンツの制作、子ども向けワークショップ、車両撮影会などを予定する。さらに職場見学や仕事体験にもつなげ、子どもや若い世代に地下鉄を支える仕事の魅力を伝える考えだ。
新田氏は「知るで終わらせず、選ぶまでつなげる」と強調。技術による安全確保と、その技術や現場を支える人材への働きかけを両立し、持続可能な軌道保守をめざす。










