夏の怪談シリーズ。そんな遅い時間ではなかったのですが。。。
梅雨明け直後の蒸し暑い夜だった。残業を終えたN美は、バスに乗るため、いつもの停留所に向かった。時刻表では21時10分発のはずだが、腕時計の針が21時20分になってもバスは来なかった。
まあ、ちょっと遅れることもあるか。そう思って顔を上げたとき、バスが静かに現れた。ヘッドライトはややぼんやりとした色をしていたが、バスの番号も行き先もいつもと同じ。N美は確認して乗り込んだ。
だが、すぐに違和感が胸をよぎった。乗客はそこそこいるのに、誰も立っていない。全員が座席に座っている。そして、立ち上がろうとする気配すらない。
2人掛けのシートのひとつに、N美は空いている席を見つけて腰かけようとした。隣の人の顔がとうぜん目に入る。その人の顔は異様に青白く、瞳には光がなかった。動かず、瞬きもせず、ただ正面を見つめている。
「あの、すみません」
小声で話しかけてみたが、返事はない。目も動かさない。
寝てる? いや……。ぞわりと冷たいものが背筋を伝う。周囲を見渡せば、他の乗客たちも皆、同じような顔をしていた。生気がなく、まるで蝋人形のように動かない。
N美はあわてて前を見た。運転席には運転手が座っていた。だがその男もまた、背筋を伸ばしたまま、目を見開いて動かない。それでもバスは、淡々と走り続けていた。音もなく、ブレーキの感触も感じさせず、まるでレールに乗った列車のように。
周囲の建物や信号が通り過ぎていく景色が、どこか霞んで見えた。N美の呼吸は浅くなり、手が震え始めた。
「降りなきゃ!」
彼女は手を伸ばし、降車ボタンを強く押した。ピンポン。その音だけは、やけに現実的だった。
次の停留所で、バスはゆっくりと止まった。N美はドアが開くのと同時に外へ飛び出した。彼女の自宅近くではないが、何度も通ったことのある幹線道路沿いのバス停だった。胸を押さえ、振り返る。……バスの姿は道路になかった。
窓の光も、テールランプも見えない。走り去るエンジンの音も聞こえなかった。道路のアスファルトが街灯に照らされているだけだった。
さっきのはなんだったの? ふと、ある可能性が脳裏に浮かぶ。事故で乗客・乗員の全員が亡くなった“幽霊バス”。もしかして自分は、間違ってそれに乗ってしまったのではないか? 震える手でスマホをバッグから取り出し、検索した。だが、そのバス路線での事故は、当日にも過去にも記録がなかった。
喉が、異様に渇いている。N美は近くに24時間営業のコンビニがあったのを思い出し、駆け込んだ。冷蔵庫からペットボトルの水を取り出すとレジへ持っていった。レジには無愛想な中年の男性が立っていた。N美は尋ねた。
「すみません、変なこと聞きますけど……。このあたりで“幽霊バス”とかって、知ってますか?」
男は、少し間を置いて、答えた。
「私は見たことも乗ったこともないけどね。あなたみたいに顔真っ青で駆け込んでくる人、年に何人かはいるよ」
N美は言葉を失った。
「あ、よかったら」
と、レジ脇から差し出されたのは、白い袋に入った小さなお守りだった。お守りには「厄除」とだけ刺繍で書かれている。
「近くの神社で祓ってもらって、用意してるんだ」
N美は無言でうなずき、そのお守りを受け取ると、コンビニを出る前に財布の中にしまった。
<編集部注> AIで生成したフィクションです。T市のTバスではありません。S市のSバスでもありません。