ルネサス、第5世代R-CarのSoCとして最高性能の「R-Car Gen 5」を発表…消費電力も30~35%低減に成功

ルネサス エレクトロニクス「R-Car X5H」の説明会
  • ルネサス エレクトロニクス「R-Car X5H」の説明会
  • ルネサスエレクトロニクスのHPC マーケティング統括部 統括部長の布施武司氏
  • ルネサスが発表したハイエンド車載用SoC(System on Chip)「R-Car X5H」
  • 業界のトレンドとしてSoCポートフォリオへの需要が高まっている
  • 自動車メーカーのニーズに応じてルネサスが示したR-Car Gen5のSoC&MCUのロードマップ
  • R-Car X5Hのブロック図。X5Hは、「X」はクロスドメイン、「5」が第5世代、「H」がハイエンドを意味する
  • チップレットによる拡張で、ニーズに柔軟に対応できる高いスケーラブルなマルチドメインの統合ソリューションを実現した
  • OEMの処理性能ニーズを満たすR-Car X5Hのフレキシビリティな能力

ルネサス エレクトロニクス(以下ルネサス)は11月14日、第5世代R-Car「R-Car Gen 5」の第一弾として、11月13日に発表したADASやIVI、ゲートウェイの複数のアプリケーションに使用可能な新世代の車載用SoC「R-Car X5H」の説明会を報道関係者向けに開催した。


SDV時代に求められる業界最高レベルの高性能を実現

このSoCの開発は、2023年11月に公開したArmベースとする次世代の車載SoCおよびマイコン製品の投入ロードマップに基づく第一弾。SDV(ソフトウェアディファインドビークル)時代に求められる業界最高レベルの高性能を実現するとともに、最先端の車載用3nm(ナノメートル)プロセスを採用した高集積化による低消費電力化を実現した。このSoCを車両のECUに使うことで、ユーザーは将来を見据えたシステム開発の効率的に実現可能になる。

R-Carそのものはエントリーからハイエンドまでを対象とするが、今回、発表されたR-Car X5Hはシリーズ中、もっともハイエンドな次世代の車載SoCとして位置付けられる。そのスペックは最先端のADAS、IVI、ゲートウェイなど複数アプリケーションに使用できる高度なものとなっており、それだけに多彩なセンサーからの入力を一括処理することを可能としている。

自動車メーカーのニーズに応じてルネサスが示したR-Car Gen5のSoC&MCUのロードマップ

この日、説明に立った同社HPC マーケティング統括部 統括部長の布施武司氏によれば、「その性能は自動運転レベル3の制御をフルサポートできるほど高いレベルにある」という。

ルネサスエレクトロニクスのHPC マーケティング統括部 統括部長の布施武司氏

処理能力は400TOPS、他社比較でも十分なパフォーマンス

そのシステム構成は、アプリケーション処理用にArm Cortex-A720AE CPUを32コアを搭載したもので、これが1000k DMIPS以上の性能を発揮。他にもリアルタイム処理向け用として60k DMIPS以上の性能を実現するCortex-R52 CPUを6コア(ロックステップ対応)も搭載した。これによって、外付けマイコンなしで自動車安全水準「ASIL(Automotive Safety Integrity Level)」でもっともハイレベルな“D” カテゴリーに対応できるという。

さらに、最大400TOPSのAIアクセラレータを備えたほか、最大4 TFLOPSのGPUの搭載とチップレット技術を適用しており、それによって顧客の要望に応じてNPUやGPUを追加して1チップ化することも可能。その際はAI処理性能を3~4倍以上にまで向上させることができ、顧客はカスタマイズにより高度なAI処理やグラフィック処理にも対応できるようになるという。

R-Car X5Hのブロック図。X5Hは、「X」はクロスドメイン、「5」が第5世代、「H」がハイエンドを意味する

なお、この400TOPSの性能の位置付けについて聞かれた同社HPCマーケティングデジタル統括部シニアダイレクター 吉田直樹氏は、「この数値は競合他社とのベンチマークや顧客からのヒアリングをした結果であって、ルネサスとして十分なパフォーマンスを提供できていると判断している」と回答した。

ここまで性能が上がると無視できないのが消費電力だ。R-Car X5Hでは、TSMCの車載用3nm(ナノメートル)プロセスを採用して、従来の5nmに比べて消費電力を30~35%低減することに成功した。チップ全体のターゲット省電力も「上の方の2桁W」(吉田氏)とする高い電力効率によって冷却部品の削減にも貢献。これらがシステム全体の低コスト化と電気自動車(EV)の航続距離延長の両立につながるというわけだ。

3nmプロセスのモノリシック設計によって、5nmプロセスに比べて30-35%の消費電力削減を可能にする

「ミックスド・クリティカリティ」にはFFI技術によって対応

また、R-Car X5Hではシームレスにチップレットを追加できるよう、チップレットのダイ間を接続する標準規格UCle(Universal Chiplet Interconnect Express)とAPI(Application Programming Interface)を提供することもポイント。これによって可能となったマルチダイシステム(ルネサス以外のチップを含む)により、他チップレットとの相互運用性を促進することが可能となった。この柔軟な設計手法がさまざまな機能を組み合わせを可能にし、顧客は車両プラットフォーム全体のアップグレードに備えたカスタマイズできるようになるのだ。

チップレットによる拡張で、ニーズに柔軟に対応できる高いスケーラブルなマルチドメインの統合ソリューションを実現した

《会田肇》

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