「電気の宅配便」でEV電欠の不安を解消するベルエナジー【EVを取り巻く破壊的イノベーションの全貌 第3回】

海外の特徴ある充電インフラ製品を日本にローカライズ

電欠による自走不能を救う移動式充電器

30分以内という急速充電の不便さを解消する

ユーザーの利便性だけでは、充電器は普及しない

充電サービスをマネタイズする秘訣

移動式充電器「Roadie V2(ローディーV2)」
  • 移動式充電器「Roadie V2(ローディーV2)」
  • 蓄電池内蔵型の急速充電器「Boost Charger(ブーストチャージャー)」
  • Bell Energy(ベルエナジー) EVインフラソリューション事業部 営業主任の川井宏郎氏
  • Bell Energy(ベルエナジー) 執行役員 営業本部長の萩野谷仁氏
  • リブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ クロスモビリティ事業部 ディレクターの西口恒一郎氏
  • 蓄電池内蔵型の急速充電器「Boost Charger(ブーストチャージャー)」
  • 「Boost Charger(ブーストチャージャー)」
  • 「Boost Charger(ブーストチャージャー)」

世界的なカーボンニュートラルへの動きとEVシフトは、自動車業界だけでなくビジネス環境全般に大きな変化を起こしつつある。これを「 EVトランスフォーメーション(EVX)」と呼ぶ。

EVXの領域でビジネスを展開する各社の動きとビジョンを深掘りする「EVを取り巻く破壊的イノベーションの全貌」。第3回は、移動式充電器の事業化に取り組むBell Energy(ベルエナジー)に話を聞いた。

EVによってビジネスと社会構造が変わる「EVX」

EVXは10の事業領域に分かれる。

1. EV+エネルギーセット販売(電力会社や石油会社)
2. EV導入サービス(企業のEV導入をトータルサポート)
3. EV+MaaS(MaaSのEV化)
4. BCP(災害時などにおける事業継続計画)におけるEV活用
5. EV用の全国充電インフラの整備
6. BasS(バッテリー・アズ・ア・サービス)=EV用バッテリ交換サービスなど
7. EMS(エネルギー・マネジメント・システム)=電力消費の最適化
8. VPP(バーチャル・パワー・プラント)=EVなどを束ねた仮想発電所
9. V2X(ビークル・トゥ・X)Xはホームやグリッド(電力網)
10. EVフリート=法人所有の複数EVの効率的な充電を含めた運行管理

これらの事業領域は単独ではなく、それぞれが影響し合う関係にある。これらの事業やサービスを運営して提供していく場合も、逆に利用する立場にある場合も、企業にとって避けて通れない領域になっていくだろう。

自動車業界はこのメガトレンドとどう向き合うべきなのか。そこで今何が起きているのか。本連載はそこに着目し、実際のプレイヤーの声を聞きながら明らかにしていく。

今回は、日本で初めてとなる移動式急速充電器を使ったEV用出張充電サービス「電気の宅配便」の事業化を目指すBell Energy(ベルエナジー) 執行役員 営業本部長の萩野谷仁氏と、同社 EVインフラソリューション事業部 営業主任の川井宏郎氏に話を聞いた。

聞き手は、EVXというワードの生みの親でもあるリブ・コンサルティング モビリティインダストリーグループ クロスモビリティ事業部 ディレクターの西口恒一郎氏が務める。

海外の特徴ある充電インフラ製品を日本にローカライズ

西口恒一郎氏(以下敬称略):まず、御社の事業内容をご紹介いただけますか。

川井宏郎氏(以下敬称略):弊社では、従来から手掛けている再生エネルギー関連事業に加えて、新規事業として電気自動車(EV)の充電インフラ関連事業に取り組んでいます。

私たちは、EVの普及を後押しする最新のインフラソリューションを提供することをこの事業のミッションとしており、海外の技術を導入することで、電動化の進展に貢献できると考えました。

蓄電池内蔵型の急速充電器を製造する米国フリーワイヤーテクノロジーズ社、移動式のEV用充電器を開発する米国スパークチャージ社、クレジットカード決済端末を搭載した充電器を製造するイスラエルのEVメーターという3社と業務提携を結び、これらの優れた商品を日本国内向けにローカライズして事業展開を行っています。

提携する3社のうち、シリコンバレー発のベンチャー企業であるフリーワイヤーテクノロジーズ社には、出資も行っており、資本関係や出資関係を持ちながら国内の販売を担当しています。

Bell Energy(ベルエナジー) EVインフラソリューション事業部 営業主任の川井宏郎氏

電欠による自走不能を救う移動式充電器

西口:この3つのサービスにはそれぞれどのような特徴があるのでしょうか。

川井:蓄電池内蔵型の急速充電器「Boost Charger(ブーストチャージャー)」から紹介します。これは、充電器に内蔵された蓄電池技術を活用して、インフラへの負担を減らしながら高出力が可能な充電器です。

西口:パワーエックス社の製品(「ハイパーチャージャー」)に近いものですか?

川井:そうですね。蓄電池を内蔵しているのは同じですが、当社の充電器の特徴は、充電部分と蓄電池部分がオールインワンのスタンドアロン設計のため、設置がわずか1日で完了する点です。 国内最大級の最大150kW(90kW/1台・75kW/2台)出力が可能であり、日産『リーフ』2.5台分に相当するバッテリーを充電器内に搭載しています。この蓄電池技術によって、低圧契約範囲内で最大4基(75kW×8口)もの設置が可能で、トータル8口で600kWの同時出力を実現しており、このような充電器はあまりありません。低圧稼働ですのでキュービクル(高圧受電設備)は不要、基本料金の軽減はもちろん、何より「グリッドに限りなく優しい急速充電器」として、来るべき電力需要の逼迫に対して明確なソリューションを確立した製品です。

蓄電池内蔵型の急速充電器「Boost Charger(ブーストチャージャー)」

次に、移動式充電器「Roadie V2(ローディーV2)」について。こちらは携帯電話のポータブルバッテリーのように、現場に持って行って電欠のEVを充電でき、100Vのコンセントがあれば充電可能な製品です。

西口:これは今年3月に東京ビッグサイトで行われた展示会「国際 スマートグリッド EXPO 春」に出展されていたものですね。

川井:はい。こちらのV2は、EVの車種にもよりますが、10分充電すればおおむね20km、20分で40km、30分で60km走行できるので、取り急ぎ近隣の充電ステーションまで走行できる分を充電することができます。

この製品は、道端で止まってしまった電気自動車の救援を目的として開発されたもので、昨年にはあいおいニッセイ同和損保と、電欠EV救援の実証実験を行いました。それ以降、損害保険会社などで、エンジン車のロードサービスのように利用できるか実運用サービス化をご検討いただいています。

移動式充電器「Roadie V2(ローディーV2)」

30分以内という急速充電の不便さを解消する

川井:そして、この移動充電サービスを活用したサービスとして私たちが現在検討しているのが「電気の宅配便」です。これは緊急時というよりは、食事やショッピング、自宅での待ち時間中に移動充電を提供するサブスクリプションモデルのサービスです。


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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