4月15日、ランチアはブランドの「マニフェスト」となるコンセプトカー、『Pu+Ra HPE』(Pu+Raの発音はプーラ)をミラノで発表。そのお披露目に先だってルカ・ナポリターノCEOがブランド再生に向けた経営計画を語った。
◆ブランド再生に向けたイメージ刷新
116年の長い伝統を誇るランチアだが、90年代以降、次第に経営が悪化。2009年に経営破綻した米クライスラーに親会社のフィアットが出資すると、クライスラー車にランチアのバッジを付けて欧州で販売するようになったが、ブランドを無視した作戦が功を奏すはずもない。2014年にフィアットとクライスラーが経営統合してFCAとなってからは、コンパクトカーの3代目『イプシロン』がランチアの唯一の商品。しかも17年以降は母国イタリアでしか販売していない。
そして2021年、FCAと仏PSAが経営統合してステランティスが発足。「お荷物」かに思われたランチアだが、旧フィアットのアルファロメオ、旧PSAのDSと共に、ステランティスのプレミアム部門の一翼を担うことになった。そのCEOに就いたのが、イタリアでランチアやアルファロメオのセールスを担当して頭角を現し、FCAで要職を務めてきたルカ・ナポリターノだ。
ナポリターノCEOはまず昨年11月、「ランチア・デザイン・デー」という広報イベントを開催。新しい”LANCIA”のロゴを披露すると共に、次世代に向けた新しいデザイン言語を表現する立体モデルを発表した。『Pu+Ra Zero』と命名されたそれは、今回の『Pu+Ra HPE』の予告編だったわけだ。
販売店のショップ・アイデンティティも刷新。ミラノを皮切りに、トリノ、ベルガモ、ローマなどで新世代店舗がすでにオープンしている。イタリア国内では今年6月末までに30店舗がリニューアルされ、新型イプシロンを発売する2024年第一四半期までに全店舗の改装を終える予定だという。
◆欧州の販売網を再構築
ランチア販売店がなくなっていたイタリア以外では当面、ドイツ、フランス、オランダ、ベルギー、スペイン、ポルトガルの6か国で販売網を築いていく。すでに30の販売店契約を結んでおり、2024年半ばまでに主要な70都市で新たな契約を結び、新型イプシロンをヨーロッパの顧客に届ける計画だ。ナポリターノCEOは「販売拠点の数や大きさではなく、あるべき地域にあることが大事だ」と説く。
販売のやり方も変えつつある。新たなホームページを立ち上げ、FacebookやInstagramも通じて顧客との接点を増やした結果、「今年第一四半期はオンライン販売が全体の15%にまで伸びた」とナポリターノCEO。来年にはそれを50%に引き上げる。
その背景にあるのが、ステランティスの新しい販売政策だ。欧州全域で販売形態をフランチャイズ制から代理店制に切り替え、販売コストの半減を狙っている。
代理店制では配送や在庫などの流通経費をメーカーが負担する代わりに、販売店のマージンを減らす。車両価格は販売店でもオンラインでも同じだから、客にとっては価格の透明性が増し、販売店にとっては値引きによる利益減をなくせる。さらに、オンライン販売が増えれば販売店の接客コストが下がり、マージンの減少を埋めることができる。
この野心的な販売政策をステランティスのなかで真っ先に導入するのが、アルファロメオ、DS、ランチアという3つのプレミアムブランドだ。3社は今年7月からオランダ、ベルギー、ルクセンブルク、オーストリアという市場規模の小さな国で代理店制を試験的に実施し、問題点を洗い出した後、来年1月からそれを欧州全域へと拡大する。
◆2028年までに3車種を投入
さまざまな施策が打たれているとはいえ、ランチアの復活の鍵を握るのはやはり商品だろう。新生ランチアの第一弾となるのは、前述のように、2024年第一四半期に発売する新型イプシロンだ。
ナポリターノCEOによれば、全長は現行モデルより少し大きな4mになり、ハイブリッドとEVが用意される。「より幅広い顧客層にアピールするクルマだと言いたい。よりヨーロピアンで、驚くほどモダンだ」。
ステランティスは「ステラ・スモール」というコンパクト級のEV専用プラットホームを開発しているが、『イプシロン』にハイブリッドもあるということは、プジョー208などと同じ「CMP」プラットフォームをベースにしていると考えて間違いない。