100%モーター駆動にこだわる日産の電動化戦略…日産自動車 パワートレイン・EV技術開発本部 渋谷彰弘氏 平工良三氏[インタビュー]

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来たる4月25日、オンラインセミナー「中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイト」のシーズン2が開催される。第1回目のゲスト講師として登壇する日産自動車 パワートレイン・EV技術開発本部の渋谷彰弘氏、平工良三氏にセミナーの見どころを聞いた。

<セミナー概要>
Season2「中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイトvol.1日産」~次世代電動車パワートレインと電動化戦略~
日時:2023年4月25日(火)10:30~12:00 (オンラインセミナー)
ゲスト講師:日産自動車 株式会社 パワートレイン・EV技術開発本部 アライアンス パワートレイン エンジニアリング ダイレクター渋谷彰弘氏
同社パワートレイン・EV技術開発本部 エキスパートリーダー兼) 企画・先行技術開発本部 技術企画部 担当部長 平工良三氏
モデレーター:ナカニシ自動車産業リサーチ 代表アナリスト 中西孝樹氏
セミナーの詳細はこちらから

■EVから出発したe-POWER

---:今回のテーマは電動車パワートレインということですね。

渋谷氏:そうですね。EVとe-POWERに関連して、我々の電動車に対する考え方を紹介したいと思っています。

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e-POWERは、EVが出発点ということがひとつの特徴です。一般的にはエンジンからマイルドハイブリッド、ストロングハイブリッドと進化していくと思うのですが、我々の場合はEVを出発点に、逆算の発想でe-POWERを作ったので、生い立ちからして駆動系はEVと一緒なんですね。

なぜそういう進め方になったかというと、EVをやってみて気づいたのですが、100%モーター駆動がいかに楽しくて気持ちよくて静かであるかということです。これを1人でも多くの方に感じていただきたいということで、e-POWERができました。

---:リーフが2010年発売ですよね。最初のe-POWERのノートはいつ発売でしたっけ?

渋谷氏:2016年です。リーフを発売した2010年には、リーフをベースにしたe-POWERの試作車をつくりました。世界に1台しかないテールパイプが付いたリーフです(笑)。

---:なるほど(笑)。これは、御社の中でリーフの走りが気持ちいいね、という共通認識から生まれたということですか?

渋谷氏:その通りです。ご存じの通り、技術的にはシリーズハイブリッドというカテゴリーになりますが、シリーズハイブリッドに対する課題認識もありましたので、それを紙の上で議論してもなかなか理解が進みません。

なのでこの試作車を作って、社内で色んな人間に乗ってもらいました。乗るとその価値が分かるので、社内の動きを作り出す上で非常に有効だったと思います。

---:そのリーフの試作車から、電動車の気持ち良さを活かしたe-POWERに進化したんですね。

渋谷氏:そうことになりますね。EVとe-POWERというのは、主要な部品、制御技術、バッテリーから電力を受けてインバータで制御してモーターを駆動して、という部分は共用できますので、これが非常に大きなポイントだと思っております。

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100%モーターで走るのがいいね、という中で、我々がお届けしたいのは、ストレスフリーな走りです。

普段運転している中で何気なく感じているストレス、なんで今加速しないの?なんでガクガクするの?アクセルとブレーキ何度も踏み替えなきゃいけないの?といったストレスをいかに低減させるかということです。

そのような視点から、100%モーターの気持ちいい走りの体験を広めていきたいというのが一番大きなモチベーションになっています。

■EVとe-POWERをどのようにコスト削減するか

---:先日のパワートレインに関する発表では、コストダウンにも言及されていますね。

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渋谷氏:はい。このような体験を普及させていく上で、e-POWERあるいはEVのコストを下げていき、できるだけ早く内燃機関車と同等のレベルに持ってきたいと考えています。

EVにおいては、バッテリーの革新がやはり基本ですので、全固体電池にチャレンジするというのが1つの大きなポイントになります。

それからe-POWERにおいては、発電専用のエンジンをいかに最適化していくかというところ。そしてパワートレインの共用化ですね。EVとe-POWERの共通部分をいかに最適化していくかというのは1つのポイントだと思っています。

もう1つ重要なのが、モーターの重希土類を減らすこと。これらの施策で、2019年比で30%のコストダウンをやっていきたいと思います。

---:e-POWERのエンジンは年々進化していますよね。

渋谷氏:そうですね。e-POWERの場合は発電専用エンジンということで、将来的には熱効率50%を目指しています。熱効率向上の方策として、安定した超希薄燃焼を実現するSTARCコンセプトに取り組んでいます。

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もう1つは、e-POWERの動作の最適化です。現在も、極めて狭い高効率領域でエンジンを動かすことによって熱効率を上げていますが、もっとも効率のいい回転域のみで動かすことができれば、それが1番いいので。

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---:バッテリーの容量を少し大きくしたり、電力の出し入れを効率化したりすることで実現するということですか?

渋谷氏:その通りです。システムとしてそのような最適化が必要になるため、エンジンとバッテリーの配分をどうするかというところも1つ大きなポイントになります。

---:なるほど。

渋谷氏:もう1つ、バッテリーEVに関しては全固体電池にも取り組んでいます。これはEVのゲームチェンジャーになります。航続距離を飛躍的に上げ、充電時間を大幅に短縮し、コストを下げる。これは2028年の量産を目指しており、そこに向けて準備を進めています。

■燃費が良いだけでは選ばれない

---:バッテリーの進化は大きな差別化要因になりますね。

平工氏:もちろん、バッテリーは生産技術を含めて大事なことなんですが、もう1つのポイントがやはりモーターなんですね。これまでの経験から、モーターの駆動力制御にコアな技術を持っています。

モーターの駆動力制御とバッテリーの技術をしっかり持っておけば、パワーソースは何でもいいというのが我々の考え方です。たまたま今は、電気とガソリンの入手が容易なのですが、これがE-Fuelや水素になっても、対応は比較的容易にできると考えています。

この考え方に至る背景が、2015年時点の北米市場の車種を比較したデータだったんです。

当時我々は、ワンモーター・ツークラッチの(e-POWERより前世代の)ハイブリッドを持っていて、それをどうやって伸ばそうかと一生懸命考えていたんです。実はこのデータは、その目標値を作るために作ったものなんです。

結論としては、燃費がいいからと言ってハイブリッドが選ばれるわけではない、ということでした。先進技術で燃費がいいからといって、結局は車としてどうなんだということで選ばれるということが、この頃明確になりました。

---:そのデータはe-POWER以前のデータということですね?

平工氏:そうです。この時はまだe-POWERはありません。当時、EVはそれなりに評価を得ていて、高価ではあるが、次世代の乗り物だということで受け入れられ始めてたんですよね。リーフもそうだったんですけど。

EVとハイブリッドとは何が違うかというと、一番分かりやすいのは駆動力特性です。これは、アクセルをパンと踏んだときの駆動力の立ち上がりを図示したものです。この黒い線で書いてあるのがエクストレイルの普通のエンジン車です。

それに対して青い線が他社のHEV、緑の線が、我々が持っていたワンモーター・ツークラッチのハイブリッドです。

リーフの赤い線を見ると、踏んだ瞬間に駆動力が立ち上がっています。これはもう、踏んだ瞬間に違うものだって分かるんですよね。北米のお客さんも、その違いに気づいてお金を出してくれると。

これをハイブリッドで実現しなければ、ハイブリッドの価値を上げることはできないと思ったわけです。そして、それができるハイブリッドは何かというと、シリーズハイブリッドシステムだったんです。

それがノートe-POWERです。以前のハイブリッドに比べて相当レスポンスが良くて、運転した瞬間、これは違うなと感じられるレベルにできました。モーター駆動じゃなきゃいけないんだというところにシフトしたのが、2014-15年ぐらいの我々の社内での論議です。

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---:なるほど。

平工氏:しかしそれも時間の問題で、他社もみんなモーター駆動にしてくるわけです。そうなった時にどのように戦うか。

これに対しては、内燃機関では実現できなかった緻密な制御を、モーターで実現しようと考えました。そうやってモーター駆動同士の戦いを勝ち抜こうということです。

という考えで、6軸の挙動制御や四駆駆動を磨き上げていったのがe-4ORCEです。おかげさまでこの技術を搭載した『エクストレイル』でテクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤーを取ることができました。

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■シャフトのねじれを先読みした精密な駆動力制御

---:実は私キックスに乗っていて、e-POWERはとても気に入っているんでが、他のメーカーのハイブリッドとはやはり相当違うということですか?

平工氏:そうですね。ひとつの例として、モーターとタイヤの間にドライブシャフトが入っているのですが、モーターをレスポンスよく立ち上げても、シャフトが捩れるのでタイヤ側が振動するんですね、普通は。でも我々はこれを制御で押さえ込んで、シャフトがあっても振動しないという技術を持っています。

具体的には、タイヤ側が振動しないように、モーター側で逆にカウンタートルクを当てて、結果的に車軸側は振動しないという制御技術を持っています。

これによって、瞬間的にトルクを欲しい量だけ与えられる。モーターのレスポンスを上げると、ジャークでガクガクとなるんです。しかしトルクをゆっくり立ち上げると、レスポンスのいい駆動力が得られなくて、エンジン車と同じような駆動力特性になってしまうんです。

だから、レスポンス良く駆動力が立ち上がるんだけど、振動せずにスッと前に出る。踏んだ瞬間、踏んだ分だけトルクが出るという制御を、経験値を含めてかなり作り込んでいます。これが我々の強みですね。

---:シャフトの捻じれをあらかじめ見込んだ上でモーターを駆動している?

平工氏:そうです。フィードフォワードとフィードバック制御、両方が入ってますけど、捻じれる部分というのはフィードフォワードで制御しています。今こういうトルクを出したらシャフトがどれだけ捻じれて、タイヤがどう振動するかという計算式を持っていて、振動が起きないように事前にカウンタートルクをあてて出すということをしています。

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渋谷氏、平工氏が登壇するオンラインセミナー【Season2】「中西孝樹の自動車・モビリティ産業インサイトvol.1日産」は4月25日開催。

セミナーの詳細はこちらから

《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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