急速に発展するインドの自動車事情。いまやインド全土に高速道路網が敷かれ、最新型の長距離高速バスが導入され始めた。
南インドに拠点を置き「イノベーションの実験室」を運営して日本とインドのビジネスの架け橋となっている大和倫之氏による「ベンガルール通信」。
今回は広大なインド亜大陸における新時代の自動車旅行事情を解き明かす。
◆急速に整備される世界第2位のインド高速道路網
2月初旬、2023年4月から始まる新年度に向けた国家予算発表を受けたテレビ番組でGadkari道路交通・高速道路大臣は、「インド政府は2024年度末までに、アメリカ並みの道路交通網を整備することを目指している」と明かした。
インドの高速道路網自体は既にアメリカに次ぐ世界2位の規模に至っているが、広い国土全体に行き渡る道路インフラの品質向上が喫緊の課題だという。特に、中国・ミャンマー、バングラデシュ、パキスタンとそれぞれ国境を接する各州の名前を挙げて、早急な環境整備に注力するとした。
大臣に就任して以来、同氏が注力している「Bharat mela 1.0」 (第一次国土整備計画) は、2017年の閣議承認で初めて予算が割り当てられて以来、着々と実現が進んでいる。これまでに3万5000kmに及ぶ高速道路が建設されたと実績がアピールされ、既に「Bharat mela 2.0」も閣議に掛けられているという。

このところ同大臣は連日のように各地の開通式に出席する姿が報道されており、自身のSNSには開通前のまっさらな高速道路やジャンクションのドローン撮影写真が続々と投稿されている。
かつて、インドでは街と街を結ぶ街道は辛うじて一車線分のみが舗装されていて、道の真ん中を走り続けない限りまともなスピードは出ない、という区間が大半だった。対向車が現れても先を急ぐ車同士、例え大型トラックやバス同士でもアクセルを一切緩めずに近付いてきて、正面衝突すれすれのところで互いに片輪を路肩に落とし土煙をあげながらギリギリ擦れ違う、というシーンによく出くわした。
そんな昔の街道の印象からは現在の様子は全く想像がつかない。中央分離帯で隔てられ、上り下りそれぞれ複数車線の舗装路がインドの広大な田舎風景の中に映し出されていることに隔世の感がある。大臣は「これまでの一日当たり40kmの建設スピードを1.5倍に引き上げて、2023年は一日当たり60kmで更なる整備を進める」とますます鼻息が荒い。今後も益々、インド各地の自然風景と高速道路、という取り合わせの写真が見られることだろう。
◆インドに訪れるグランド・ツーリング時代
日本なら550km離れた東京・大阪間でもDoor to Doorでせいぜい片道3時間程度、出張も日帰りが当たり前になって久しい。新幹線でも航空機でも、いずれを選んでも定刻運行が基本だから、よほどのへまをしない限り訪問先とのアポイントメントに遅れることもないだろう。