クルマ作りを大変革するトヨタの「ソフトウェアファースト」とは

環境変化に対応するソフトウェア化

モビリティカンパニーとソフトウェアの関係

市場・社会ニーズに応えるフレキシビリティ

車両もソフトウェアも開発プロセスが変わる

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  • トヨタ GRヤリス RZハイパフォーマンス

ソフトウェアファースト」は、OEMやサプライヤーなど各所で聞かれる言葉だ。だが、各社の戦略の詳細や考え方は、あまり公表されることがない。経営戦略や事業計画にも関わることなので、当然といえば当然だが。

昨年末に「ETAS Symposium 2022」にて行われたトヨタ自動車 電子制御プラットフォーム開発部 部長 谷口覚氏による「ソフトウェアファーストに向けた クルマづくりの変化」と題する講演は、同社の基本戦略を理解するうえで非常に参考になるものだった。

◆環境変化に対応するソフトウェア化

まず谷口氏は、100年に一度の変革期に、OEMとしてビジネス環境の変化に合わせた改革が必要という認識を示した。変革期であることはCASEによる次世代車両の開発競争に象徴されるが、重要なのは、変革が自動車そのものやビジネスモデルにも影響を及ぼしていることだ。

「コネクテッド機能は車両機能の制御だけでなくIoTとしてのデータの収集、エンタメを含むサービスビジネスの拡大、また、開発環境も変えている。自動運転ではレベル2が当たり前のものとなり条件付き自動運転(レベル3)も市販化が始まった。

ライドシェア、シェアカービジネスは日本で普及してきている。電動化は販売面、政策面でも強化が進む。トヨタとしてもCASEによる価値づくりへのシフトを考えている。新しい価値づくりで欠かせないのがデータを活用したサービス開発、デジタル化とソフトウェアである」(谷口氏)

◆モビリティカンパニーとソフトウェアの関係

トヨタ自動車はまた、「製造業からモビリティカンパニーへ変わる」ことも表明している。「この意味は、人(人流)、モノ(物流)、コト(体験・コト運び)をつなげることで新しい可動性の価値を創出すること」だと谷口氏は説明した。そして、これらをつなげる土台としてオープンプラットフォームが必要だとした。

デジタル化、モビリティカンパニー、オープンプラットフォームはいずれも、ソフトウェアファーストの考え方を加速するドライバーでもある。ウーブンプラネットのジェームス・カフナーCEOはソフトウェアファーストについて、自動車の価値を高めるため「よいハードウェアにソフトウェアの強味を融合する」「ソフトウェアの構造を考えたうえでハードウェアを設計することも重要」と述べている。

谷口氏は「ソフトウェアの再利用性、自由度を上げるソフトウェア構造、製品設計を行う必要がある」と説く。これらの言い方を変えると、従来型のスタイルや性能ありきのハードウェアを軸とした設計だけでなく、それに合わせたソフトウェアの設計が重要になるということだ。

「従来は均一的な工業製品がアウトプットであり、カスタマイズはオプションで対応していた。これからは、ソフトウェアの強味を生かした、多様性を持ったクルマにしなければならない。クルマの耐用年数は伸び、買い替えサイクルも長くなっているが、機能は最新のものを使いたい。必要なときに必要な価値、機能を提供できるクルマが必要だ」

◆市場・社会ニーズに応えるフレキシビリティ

開発サイクルを短くして、OTA(Over The Air=無線経由のソフトウェア更新)などによるフレキシブルにアップデートできるクルマが求められている。ソフトウェアファーストとは、継続的に新しい機能を提供するためにクルマづくりにモビリティサービスを実装する手法だ。このようなクルマは社会や街づくり、SDGsにも貢献できる。

トヨタでは具体的な施策として「アップグレード」「リフォーム」「パーソナライズ」を実践している。アップグレードは、ブレーキ制御の改善、ハンズフリーパワーバックドアの追加、ACアウトレットの追加といった、従来ではメーカーオプションだったものをOTAまたはハードウェアの後付けで対応できるようにした。

リフォームではシート生地や本革ステアリングの交換、張替えといったサービスがある。パーソナライズでは、GRヤリスの一部グレードで実施したトルクカーブやブレーキ制御の変更サービスがある。オーナーとエンジニアがサーキットでの実走行をもとに、ドライバーの特性や好みにあったECUセッティングを行ってくれる。

トヨタのGRヤリスではソフトウェアの「アップグレード」と、ドライバーに合わせたセッティングを行う「パーソナライズ」に対応

◆プロダクトのアーキテクチャが変わる

ソフトウェアファーストは「プロダクト」「プロセス」「スタイルアンドマインド」という基軸で取り組む。

ソフトウェアファーストでのプロダクトは、車両本体に搭載されるソフトウェアのほか、開発環境や開発ツール群、クラウドプラットフォーム上のソフトウェアも含む。CASE車両においてはオンボードソフトウェアは全体の1割程度で、残りは車載以外のソフトウェアだ。


《中尾真二》

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