世界最悪の交通渋滞をどう解決するか? メトロ延伸の課題と公共交通のあり方【ベンガルール通信その24】

急速な経済発展に伴いメトロの路線網が拡大

交通渋滞解消のカギは「乗り換えを伴う公共交通」

「使わない口実」を減らすため、利用環境を整備

地域に根ざした公共交通の適切なあり方を模索

マハトマ・ガンジー・ロード駅に掲げられる日印協力の証(右)と、チケット販売員のチャットボット"Bhagya"(左)
  • マハトマ・ガンジー・ロード駅に掲げられる日印協力の証(右)と、チケット販売員のチャットボット"Bhagya"(左)

南インドより、ナマスカーラ!

世界で最も渋滞のひどい都市とも呼ばれるベンガルールだが、現在、メトロを中心とした都市交通の構築が加速している。

都市交通の分野において、既に「ポストコロナのニューノーマル」を築き始めている南インド・ベンガルールより最新事情をお届けする「ベンガルール通信」。24回目となる今回は、メトロを中心としたベンガルールの公共交通の現状と課題を整理し、公共交通のあり方を探る。

◆急速な経済発展に伴いメトロの路線網が拡大

2011年より営業を開始したベンガルールの都市交通であるメトロ、通称Namma Metro (私のメトロ)は2022年12月現在、「紫の東西線」と「緑の南北線」の二路線が運行しており、営業距離は56km。都心区間は地下化されているが大部分は主要幹線道路に沿って高架化されている。これに伴い工事区間の道路はより一層の混乱と渋滞に見舞われているが、都市が発展する過程の一段階として当面の間の辛抱が求められる。

目下のところ期待されるのは、大規模IT企業が多数集積し最近は日本人居住者も多い新興地域ホワイトフィールドに向けた東西線の延伸で、2023年3月の営業開始が予定されている。その後、2025年にかけて黄色、ピンク、青の新規三路線の開設と併せた総延長175kmに至る工事は順調に進んでいるという。最近はSNSアプリからチャットボットを介してチケットを買い、自動改札にQRコードをかざして乗車できるようにもなった。

◆交通渋滞解消のカギは「乗り換えを伴う公共交通」

そんなベンガルールでは、2022年11月半ばにアジア最大のテックサミット「ベンガルール・テック・サミット2022」が開催された。今年で25回目となるBTS2022はモディ首相による開会の辞に始まり、IT技術、ディープテック、バイオ技術、スタートアップ、イノベーションに向けたグローバル・アライアンスといった分野に分かれて、日本を含む32カ国から600社が出展。期間中は400名超の登壇者が思い思いの未来像や課題認識、それぞれ独自の「テック」を用いた解決案を語った。

最終日に“Future of Mobility”をテーマに掲げるセッションがあった。その中でBMRCL (Bangalore Metro Rail Corporation Limited、ベンガルール市メトロ公社)のトップは、2041年までに現状の5倍以上となる営業距離314kmに至る延伸計画を明らかにした。ベンガルールは人口と面積が東京23区の2割増し規模の都市。東京メトロと都営地下鉄の営業距離の合計もちょうど300km超というから、20年後には今の東京で地下鉄を使うのと同じくらい、どこにでもメトロで快適に移動できるようになっている、ということだろうか。

とはいえ、この公社トップが語ったところによれば、莫大な予算と大規模で複雑なプロジェクト管理が求められる建設工事もさることながら、経済的、物質的な要因以外のところに都市交通を整備・普及させるための大きな障害が存在するという。世界最悪とも言われるベンガルールの交通渋滞解消に向けた道のりは、決して平坦な一本道ではなさそうだ。


《大和 倫之》

大和 倫之

大和倫之|大和合同会社 代表 南インドを拠点に、日本の知恵や技術を「グローバル化」する事業・コンサルティングを展開。欧・米の戦略コンサル、日系大手4社の事業開発担当としての世界各地での多業種に渡る経験を踏まえ、シンガポールを経てベンガルール移住。大和合同会社は、インドと日本を中心に、国境を越えて文化を紡ぐイノベーションの実践機関。多業種で市場開拓の実務を率いた経験から「インドで試行錯誤するベースキャンプ」を提供。インドで事業を営む「外国人」として、政府・組織・個人への提言・助言をしている。

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