あらゆる業界で待ったなし:事業承継とM&Aの違いは?…中小企業庁 財務課 課長補佐 髙橋正樹氏[インタビュー]

あらゆる業界で待ったなし:事業承継とM&Aの違いは?…中小企業庁 財務課 課長補佐 髙橋正樹氏[インタビュー]
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少子高齢化の影響はさまざまな分野に現れている。親族経営の多い中小企業では、業界・業種を問わず「事業承継」がここ数年の課題となっている。中小企業では子どもが後を継がない、子どもがいない場合、経営者のリタイヤは廃業へと直結することになりかねないからだ。

自動車業界はサプライチェーンの末端、および市場エコシステムの裾野が広い業界だ。中小企業も多く、もちろんこの問題は他人事ではない。事業承継について、まずは日本国内の状況、そもそもの問題や対策への取り組みについて中小企業庁に聞いた。

インタビューに答えてくれたのは中小企業庁 財務課 課長補佐 髙橋正樹氏。髙橋氏は、4月14日開催の無料のオンラインセミナー 自動車業界向け事業承継・M&A戦略~実際の事例から学ぶ~に登壇し、中小M&Aの推進について講演する予定だ。

事業承継問題の本当の影響

――まず事業承継問題の現状はどうなっているのでしょうか。

髙橋氏(以下同):少子高齢化は、経営者年齢の統計にも現れています。2000年では「50~54歳」が経営者年齢のピークでした。その後、経営者年齢の多い層の山は「55~59歳」、「60~64歳」とシフトしていき、足元の2020年を見ると、経営者年齢の多い層が「60歳~64歳」、「65歳~69歳」、「70歳~74歳」に分散しており、これまでピークを形成していた団塊世代の経営者が事業承継や廃業などにより経営者を引退していることが示唆されます。一方で、70歳以上の経営者の割合は2020年も高まっています。また、アンケート調査でも事業承継を経営上の問題として認識している企業は3社に2社、後継者不在率も高止まりしている状況です。

――中小企業において経営者の高齢化と後継者不在はどのような問題につながるのでしょうか。

中小企業において後継者がいないと、仮に黒字経営だとしても廃業せざるを得なくなります。休廃業・解散する事業者のうち約6割の事業者が黒字だったとする調査もあります。廃業に伴い、これまで地域の中小企業が蓄積してきた貴重な経営資源、例えば人材や独自の技術などが散逸してしまう可能性があります。中小企業は地域経済や地域の雇用を支える存在です。後継者が不在であっても経営資源が引き継がれていくことが重要だと考えています。

誰に、いつ相談すればいいのか

――その対策として事業承継が必要ということですね。

はい。中小企業では、社長の子息に後を継がせたり、番頭に経営を引き継ぐということが一般的でしたが、後継者がいないとなると、第三者への引継ぎ、すなわちM&Aが選択肢となります。とはいえ、通常の経営者であれば、これまで経営した会社を譲り渡すことは生涯に一度あるかどうかの出来事です。

――中小企業経営者が事業承継を考える場合、いつ頃から始めるとよいのでしょうか。

後継者を決めてから事業承継が完了するまでの後継者への移行期間については、3年以上を要する場合が半数を上回り、10年以上を要する割合も少なくないとする調査もあります。概ね60歳頃には事業承継に向けた準備に着手することが望ましいといえます。

早期に事業承継の検討をはじめられれば、後継者の選定や育成、譲受側の選定に時間をかけるなど、採り得る選択肢も広がります。最近では、50代くらいの経営者の方であっても、将来事業を引き継いでいくための準備について相談に来ている、といったお話を聞くことがありました。徐々に事業承継の重要性が浸透してきているのだと思います。

――事業承継はどこに相談すればいいのでしょうか。

中小企業庁では、各都道府県に「事業承継・引継ぎ支援センター」を設置し、経営者の事業承継に関する相談に対して支援を行っています。事業承継について、まず何をすべきかと悩みがあれば、是非、お近くの事業承継・引継ぎ支援センターにご相談をいただきたいと思います。

また、身近な支援機関として、商工会や商工会議所等の商工団体、士業等専門家、金融機関など、事業承継に関する支援を行っていますので、こういった支援機関にもご相談いただきたいと思います。

よくある相談内容

――センターではどんな相談がくるのでしょうか。

譲渡を希望する経営者からの相談では、「そもそも自分の会社は売れるのか?」「赤字や負債があるが大丈夫か」といった相談をいただくこともありますが、譲受側が希望する条件は、特定の経営資源、従業員の技術など、さまざまですので、そういった悩みをお持ちであってもまずはご相談いただければと思います。

センターでは、親身になって相談者からお話を聞いた上で、事業承継や事業の引継ぎへと進む際に、事業承継計画の策定やM&A支援機関等の紹介、マッチングの支援などを行います。

売り手の意向を無視したM&Aは少ない

――売り手としては、譲渡したあとの事業や従業員に対する不安もあると思いますが。

「中小企業白書」では、M&Aを行った企業と行っていない企業とを比較して、生産性の向上や売上高等が増加しているとの分析もなされています。また、M&A実施後、8割以上の企業において譲渡企業の従業員の雇用が継続されているという調査もあります。

――また、売り手としては、M&A仲介業者に対して不安があると思いますが。

中小企業庁では、「中小M&Aガイドライン」を策定し、そこではM&A仲介業者などM&A支援機関に対する行動指針を示しています。M&A仲介業者に対しては、売り手と買い手を間にたってM&Aの支援をすることから、利益相反が生じるおそれがあります。「中小M&Aガイドライン」では、安心して中小企業がM&Aに取り組めるように、問題が生じやすい事項を明示しています。

また、昨年8月から、「M&A支援機関登録制度」を創設し、登録を希望するファイナンシャルアドバイザーやM&A仲介業者に対して、中小M&Aガイドラインの遵守を求めることとしており、M&A支援機関に対するガイドラインの浸透と遵守の徹底を図っているところです。

――なるほど。事業承継や中小M&Aについて悩みをもっている中小企業にとっては、さまざまな相談相手や施策が講じられているのですね。また、中小M&Aに当たっては、譲渡し側と譲受け側のお互いが、納得できることも重要ですね。

髙橋氏が登壇する無料のオンラインセミナー 自動車業界向け事業承継・M&A戦略~実際の事例から学ぶ~は4月14日開催。
《中尾真二》

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