EV活用ビジネスは普通充電器の高度化がカギ…三菱総研 主席研究員 志村雄一郎[インタビュー]

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欧州でEVの普及が加速しており、それに伴ってEVとエネルギーインフラを連携する新たなビジネスが育ちつつある。同様の事業を日本で展開する際の課題と解決法について、三菱総合研究所 サステナビリティ本部 主席研究員の志村雄一郎(しむらゆういちろう)氏に聞いた。

志村氏は、12月24日開催のオンラインセミナー エネルギー分野と自動車分野の連携による新たなビジネスチャンスに登壇し詳説する予定だ。

今後のエンジン車の販売規制がEV普及を後押し

---:欧州でEVの普及が加速していますね。

志村:はい。欧米では2030年以降にエンジンで走る車、いわゆる化石燃料を燃やしてエンジンで走る車の販売を制限するという方針を打ち出しています。それにともないEVの普及は加速しています。

2,3年前の状況ですが、イギリスやドイツは1%から2%と、ちょうど現在の日本(1%)と近い状況です。ところがここから数年で状況は変わっていき、現在のイギリスは10%程になっています。

---:10%となると、消費者としてもかなり普及を実感し始める割合ですね。

志村:イギリスにおいてはEVはロンドン周辺に限ったことではありますがコンジェシュチョンチャージ(混雑課金)、街の外から中に入ってくる時に相当な金額を取られるのですが、こちらが免除されるのは経済性の面でEVの普及を後押しています。

さらに普及拡大の要因として考えられるのは、2030年以降のエンジン車の販売制限の動きです。これによりエンジン車の中古車の値段が崩れる懸念があります。そしてもう一点は、補助金が増えたことです。

また、EVの普及率が8割を超えるノルウェーでは、自国に自動車産業がないため、エンジン車の関税や税金を高くするという形を取り、それが普及率にも反映されています。

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EV普及に伴ってインフラ拡充も加速

---:EVの普及が進むにつれて、インフラの整備も課題になっていますね。

志村:インフラ整備の話になると、非常に高価な急速充電が必要だと考えられがちです。確かにそういうアプローチも必要ですが、例えばオランダでは、街中には大型の急速充電器ではなく、ちょっと買い物に行っている間に充電できるような、経済性の優れた簡易な充電スタンドを数多く整備し、ネットワークを広げています。

必ずしも容量の多い高価なものを設置するだけはないんですね。費用対効果を考えて、都市部では利便性や数多くのスタンドを安価に設置して整備していくというやり方をしていくと、インフラ整備に対して非常にお金がかかるのでは、という不安も回避できるのではないでしょうか。

再エネの課題をEVで補う新ビジネス

---:EVの普及と同時に再エネ比率も高めていく必要がありますね。

志村:もちろんそうです。ただ、再エネというのは天気頼りなので発電量にかなり波があります。電気の場合は、需要と供給を一致させないと、周波数が変動してしまい、最悪の場合は停電を引き起こしてしまいます。

ゆえに、発電量の変化を補うためのバッファーとして蓄電池のニーズがあるのですが、それにEVを活用するというビジネスが生まれています。EVの電気を蓄えるという機能を第三者に提供することで、EVユーザーの利益になるというビジネスです。

このようなビジネスの前提となっているデータ流通が、特にヨーロッパで進んでいます。クルマのデータをオープン化して新たな産業を興していきましょうという戦略が数年前から始まっています。

EVのデータはいろいろな事業者に貯まっている。それに横串を刺して皆さんとデータを共有することで新しい価値を作っていく。そのためのルール作りを進めているというものが、欧州のデータ流通戦略です。

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---:EVをインフラとして活用するためのデータベースの標準化ということですね。

志村:はい。現状では、EVのデータは自動車会社が自社のサーバーに吸い上げ、電池の状況などをモニタリングしています。そのデータを自動車会社は今後の技術開発に用いているのですが、そうではなくてそのデータを利用してビジネスをしたい人たちに開示していきましょう、という方針があります。これを打ち出したのはヨーロッパの自動車工業会です。

日本ではまだこのような取り組みは聞かないのですが、一部の業務、例えば保険業務で走行距離のデータを保険会社に提供する、ということはあります。ですがそれはあくまでも系列や関係の深い保険会社に渡すものです。縦のサイロ上にはなっているので、そこが違うところですね。

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普通充電にも通信機能を

---:具体的なビジネスの事例はどのようなものがあるのでしょうか。

志村:エネルギーマネジメントにEVを利用するビジネスです。複数の自動車会社が持っているEVのデータを、共有のデータベース上に整理し、他の事業者でも利用しやすくすることで、データの価値が生まれています。これを利用して、電力会社から利益を得ようという動きがあります。

---:具体的にはどのようなビジネスなのでしょうか。

志村:例えば、風が吹いて電気を発電し過ぎてしまったという状況が起きた時に、そのタイミングで充電してください、という信号を出し、お腹が空いているEVを探して充電をするという仕組みです。

電気を計画よりも余剰に発電するとペナルティーが発生するのですが、それを回避できるので、発電事業者にとってもハッピーですし、EVユーザーにとっても安く充電出来ればラッキーですよね。さらに系統運用者にとっては系統運用の調整費用もなくなるので、皆さんがハッピーになるという仕組みです。

EV活用ビジネスは普通充電器の高度化がカギ…三菱総研 主席研究員 志村雄一郎[インタビュー]EV活用ビジネスは普通充電器の高度化がカギ…三菱総研 主席研究員 志村雄一郎[インタビュー]

---:なるほど、再エネ比率が高くなるとそういう課題もあるんですね。

志村:このようなビジネスを日本で展開することを考えるときに、EVの充電状態のデータをどう取るかという課題があります。

車両から直接データを取得する方法のほかに、充電器経由で蓄電池のデータを取る方法があるのですが、日本の現状を考えると、多くのEVは車庫で普通充電の充電器に繋がっている場合が多く、それには通信機能はなくて単純に家のメーターに繋がっているだけです。電力量は計測していますが、充電状態によって充電のオン・オフをする外部からの制御機能は充電器にないんですね。

イギリスでは、通信機能付きの充電器でなければ補助金が出ない、というルールになっています。 さらに欧州では、そういう新たなビジネスを想定したこれまでとは異なる充電方式の普及に取り組んできており、充電器からも電池の情報を取得し、充電の制御ができるようになりつつあります。

普通充電をいかに高度化するか。あまり高度化してコストを上げてしまうのも問題なのですが、最低限の高度化で必要なことを実現しなければなりません。それを日本としてどうしていくかというルール作りに目を向ける必要があります。

---:「普通充電の高度化」、これは重要なキーワードになりそうですね。

志村:再生可能エネルギーの発電量が過剰になった時だけではありません。EVが普及し始めて、皆が充電したい時にそのまま充電していたら、夕方の電力需要のピークが過大になり、それに合わせて電力インフラを2倍3倍に増やすとなると、膨大な設備投資が必要になってしまいます。

充電タイミングの制御はとても重要な課題であり、充電器を直接制御できるような何らかの仕組みが必要だと考えます。これは日本として考えていく必要があるテーマですね。

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---:そのためには、普段繋がっている時間の長い普通充電器の高度化が前提ですね。

志村:そうですね。普通充電器を高度に運用するための仕様の標準化が必要です。欧州ではデファクトの仕様が広まっていった経緯があり、それを国際標準化して使おうとしているのですが、日本はまだ方針が決まっていません。

充電器からどのようなデータを取得し、共有のデータ基盤とするか。何でもかんでもデータを出してくれ、というのは自動車メーカーにとっても大きな負担になるので、最低限このデータだけは出してほしいという部分を、国を巻き込んで議論していきたいですし、サービサーの視点からも、何をしたいからどんなデータが必要だ、というアイデアも欲しいですね。

その辺りのルール設計を進め、アプリケーションの開発はサービス設計が得意な事業者に参加していただきたいと思っています。今回のセミナーに参加される方のなかで、そういった事業機会を考えている方がいらっしゃれば、コミットしていただくとうれしいですね。

志村氏は、12月24日開催のオンラインセミナー エネルギー分野と自動車分野の連携による新たなビジネスチャンスに登壇し詳説する予定だ。
《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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