熱効率50%を実現、日産の「STARC」燃焼とは?…次世代e-POWERを担う新技術

筒内燃焼を可視化できるエンジン
  • 筒内燃焼を可視化できるエンジン
  • 燃焼シミュレーションなどエンジン開発でもモデル開発が主流
  • ダンブル流
  • 次世代e-POWER用エンジン

日産自動車は、国内OEMの中で電動化戦略で先行するメーカーだ。EVの市販投入は10年も前であり、2030年のなるべく早い段階で新車をすべて電動車にすると表明している。その日産が26日、熱効率50%のエンジンに関する新技術の説明会を行った。

日産は、エンジン単体の熱効率で43~46%程度を実現する技術を開発し、これに加えバッテリー効率などを考慮した走行全体の効率で50%を達成する目途がたったとする。

エンジンの熱効率は2000年代くらいまではおおむね30%台だった。その後、トヨタ、マツダ、スバルなどが熱効率40%以上のエンジンを開発、市販車投入をしている。熱効率を細かく公表するメーカーが少ないので正確なところは不明だが、43%、46%という数字はその中でもトップクラスといっていいだろう。業界においてはここ10年ほど熱効率50%がひとつの目標となっていた。

しかし、日産といえば『リーフ』や『アリア』、市場投入がほぼ確実な軽自動車EVなど、電動車のブランドでもある。新型『ノート』は全車種e-POWERとするなど、電動車シフトを推進しているメーカーだ。なぜエンジンの効率化を進めるのだろうか。

e-POWERはシリーズハイブリッドのため内燃機関エンジンが必要だからというのもひとつの理由だが、エンジン技術の開発はハイブリッド車において電動化戦略とも矛盾しない。しかもe-POWERのようなエンジンを発電専用とするハイブリッド方式だからこそ、熱効率50%が可能であると言える。

そもそも内燃機関は効率があまりよくないしくみだ。確かにガソリンなどの液体燃料のエネルギー密度はバッテリーよりも高いが、エネルギーのほとんどは熱で動力に使えるのは爆発・燃焼での膨張力だ。しかも、最大熱効率が出せるのは最高出力付近の限られた領域だ。つまり、エンジン全開で定常運転している状態がもっとも効率がよい。

逆に言えば、エンジンを定常運転できれば非常に効率の良い仕事をさせることができる。つまり発電専用のエンジンは、熱効率を最大化させやすい。エンジンを駆動動力に利用しないe-POWERは、低速トルクを捨て一定の回転数を維持する使い方が想定できる。理想の熱効率を追求するのに都合がよい。

一般的に熱効率を上げるには、エンジンの圧縮率と比熱比をあげる。圧縮率を高めるにはノッキング対策として、ミラーサイクル、筒内燃焼の最適化(ガス流動)、冷却EGRといった技術を利用する。比熱比を上げるにはEGRを増やし、リーン燃焼(希薄な混合気)のためのガス流動の最適化と点火システムの工夫が必要となる。トヨタ、スバル、マツダのSPCCIなどこれまでの熱効率40%越えといわれているエンジンも、開発の方向性はほぼ同じだ。

日産がe-POWERの発電エンジン向けに発表した新技術は、EGRとリーン燃焼を追求するものだが、とくに筒内のガス流動に着目し、吸気工程で作られるタンブル流という過流を圧縮・点火時まで維持するしくみと、過流をうまく点火プラグに整流し誘導することで放電チャネルを最適に維持する(燃焼が広がって失火を防ぐ)技術を実用化させた。この技術を日産では「STARC(Strong Tumble & Appropriately streched Robust ignition Channel)燃焼」と呼んでいる。

STARC燃焼では、EGR30%という高希釈燃焼でエンジン熱効率43%を達成。さらに理想運燃比(通常、燃料1、空気14.7)の2倍以上希釈なリーン燃焼(2>λ)を加えて46%までエンジン単体で実現した。

残りの4%はどう達成するのだろうか。これもe-POWERだからこそ狙える領域といえるだろう。たとえばノートでも、バッテリーの性能が上がりエンジンの稼働領域をさらに狭められれば、発電タイミングや時間の制御がしやすくなる。

ただし、熱効率を追求すると、そのスイートスポットは狭まる傾向にある。そこ以外のトルクや出力を捨てることになるので、エンジンが発電と駆動を兼ねるパラレルハイブリッド方式では採用しにくい。他のハイブリッド方式でも、モーターアシストを強化すれば全体効率を上げることは可能だが、ならば最初からエンジンを発電に特化させたほうが合理的だ。騒音や乗り心地の面でも制御しやすくなるのは新型ノートが実証済みだ。

今回の技術検証で利用したエンジンは1.5リットル3気筒ターボエンジンだそうだ。STARC燃焼技術を搭載した車両の出荷時期は未定だが、日産はe-POWERの欧州、北米展開もアナウンスしており、発表の場ではSTARC燃焼エンジンによるレンジエクステンダーの可能性も言及していた。熱効率50%が実現できれば、40%のエンジンから25%ほど燃費が改善されるという。STARC燃焼エンジン搭載の次世代e-POWERに期待したい。

《中尾真二》

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