【土井正己のMove the World】安全装置の徹底とビジネス化、バス事業に求められるものは

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年初から再びいたたましい事故のニュースが飛び込んできた。若者を乗せたスキーバスが、峠のカーブでガードレールを突き破り谷に転落し、学生など15人が死亡したというニュースだ。亡くなられた学生の中には、就職が決まり、春から新たな人生をスタートさせる予定だった若者も多く含まれていた。心からご冥福を祈りたい。

事故は、1月15日の午前2時頃に発生している。バスの運転手が、コース指定されていた高速道路から、自分の判断で一般道路に変更していたという。転落する前には道路で蛇行運転となり、最後は片輪での走行だったと報道では伝えている。事故の原因としてテレビや新聞は、「ドライバーがコースを勝手に変更したこと」などを問題として大きく取り上げているが、直接的な原因は、居眠り運転か、病気による運転中の失神の可能性が高い。

◆自動運転で事故は防げる

前にもこのコラムで書いたが、自動運転技術はこういう事故を防ぐ技術であって欲しい。ドライバーの瞼の動きを感知する「ドライバーモニター」が、ドライバーの居眠りや異常を感知した場合に、自動運転モードに切り替わり、バスを安全な場所に誘導して停車させるというような「居眠り事故防止システム」があれば、今回のような悲惨な事故は防げたかもしれない。もっとも、こうしたシステムが導入されることで居眠り運転が増えては困るので、モニターで感知後に警察に通報され、ドライバーを逮捕するというくらいのペナルティは必要だろう。

◆トヨタは人間主体の自動運転技術

トヨタがAI(人工知能)の研究開発に本気で取り組みだした。1月12日付けの日経・FT共同インタビュー記事の中で、豊田社長は「自動車は単なる移動手段ではなく、運転する人に一種のフリーダム(自由)を与えるものだ。どんな速度で走り、どこで曲がり、どこで追い抜くか。自動車である以上はそうした決定権がドライバーにあってしかるべきだ。その上でAIなどが人の技量を補って、交通事故を未然に防ぎ、より安全で快適な走行を実現できれば、クルマの魅力が一段と高まることになる」と語っている。

グーグルやアップルなども自動運転の研究を行っているが、無人運転を目指している。一方、トヨタはあくまでも人間主体で、ドライバーである人間をサポートするためにAIの研究を行うという意味である。人間である以上、体調の急変はある。確率の問題で深夜に睡魔との戦いに破れる人もいる。自動運転技術により、こうした人間の過失、体調の急変、ハンディキャップによる事故を防ぐことを目指すというのがトヨタの考えだろう。

トヨタグループのアイシン精機は、すでに自動運転による居眠り事故防止のシステムを開発している。さらに、四輪操舵システム(4WS)としてドライバーがハンドルの上にうつ伏せ状態となっても、後輪でクルマを自動運転するシステムまで進化させている。

現在、政府は、12t以上の大型バスに対して、自動ブレーキ装着の義務付けを行っているが(一昨年の11月以降の新車のみ)、全車装着には時間がかかる。重要なのは、こうした安全装置をユーザーサイドがバス会社に対して要求し、装着車を選定して乗車することだと思う。

また、バス会社は、安全装置をマーケティングの素材として活用し、ビジネスモデルにしていくことだ。そして、そうした動きをマスコミや社会が応援することも重要だと思う。今回のような事故が二度とおきないようにするにはどうすればいいのか、それぞれの立場で真剣に考えていきたい。

<土井正己 プロフィール>
グローバル・コミュニケーションを専門とする国際コンサル ティング・ファームである「クレアブ」代表取締役社長。山形大学 特任教授。2013年末まで、トヨタ自動車に31年間勤務。主に広報分野、グローバル・マーケティング(宣伝)分野で活躍。2000年から2004年まで チェコのプラハに駐在。帰国後、グローバル・コミュニケーション室長、広報部担当部長を歴任。2014年より、「クレアブ」で、官公庁や企業のコンサルタント業務に従事。

《土井 正己》

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