企業内イノベーション、「リソースが足りない!」と言う前に

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慶應義塾大学経済学部教授 武山政直氏
  • 慶應義塾大学経済学部教授 武山政直氏
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4月22日、博報堂にてマーケティング・イノベーター研究会が開催され、慶應義塾大学経済学部教授武山政直氏が「サービスデザインとリソースネスのイマジネーション」と題した講演を行った。

サービスデザイン、というキーワードのもとで教育研究と実務のコンサルティングの双方で活動してきたという武山氏。研究教育で開発したメソッドを実務に応用し、実務で取り組んだケースから共通の課題や共通の方法論を模索しているのだという。武山氏は顧客が最終的にしたいこと(モノを手にいれること、に留まるのではなくそれよりも一歩踏み込んで、そのモノを使ってすること)を達成するために企業のリソースを組み合わせることが大切、との旨のべた後に、リソースの捉え方とイノベーションの関係性に話をうつした。

イノベーションの可能性はリソースを組み合わせる過程に

「何かをするためにリソースが足りない」とよく言われるが、リソースは他のどういうものとともにあるかによって価値の認識のされ方も変わる。リソースが足りない、と考える前にリソースをあらためて捉えなおすことでチャンスが生まれる可能性があり、リソースの捉える際には以下の4つのポイントが参考になる(武山氏)。

1利用者による評価と働きかけ(appraisal)
2アクセスの可否性(accessness)
3利用の目的(outcome, jobs to be done)
4他のリソースの存在(context)

「リソースは単独で、在る・無い、という性質のものではなくて、どういう目的で、他のどういうものとの組み合わせでそれをとらえるかによって認識のされかたが変わっていくことにポイントがある、1使い手に知識があるのか、リソースを活かすためのテクノロジーを持っているのか。あるいは2それをわかっていてもアクセスできるのか、そして3そもそもそれを活かそうという目的が明確になっているのかどうか。こういった視点のなかでリソースの価値が決まってくるところにポイントがある。そして、リソースの役割をみていくなかで多くのカスタマーは4リソースを組み合わせて自分のやりたいことを実現している」

そして同研究会のテーマであるイノベーションというのは、このリソースを組み合わせていくコンテクストに介入するところにチャンスが見えてくると考えることができるという。

イノベーションの4つのパターン

武山氏は続いてイノベーションをいくつかのパターンに分類して説明した。

1 顧客のエンパワーメント

顧客がある目的を達成しようとしていて、それに必要なスキルや知識が足りないとき。足りない知識やスキルをプロダクトに組み込んで、お客さんの利用環境のなかに置きこむパターン。

2 企業と顧客の役割分担の変更(顧客→企業)

どういうリソースを組み合わせればいいかわかっていて、調達することもできるけれど、それを探すところから顧客が行って、インテグレートまでするのはめんどうくさいというとき、その調達を顧客がしなくてもいいようにするというパターン。

3 企業と顧客の役割分担の変更(企業→顧客)

2とは逆に、顧客の方にある種の役割を与えてあげることで別の部分でメリットを享受させるというパターン。このパターンの例にはIKEAの家具の売り方が挙げられ武山氏は「それまで一般の家具屋は家具の組み立てまでをして売り渡していたが、それに対してIKEAは家具の部品を売って顧客に組み立てをさせた。そのかわり、デザイン性の高い家具をバリエーションの豊富な中から、手頃な価格で手に入れられるという満足をあたえている」とコメントした。

4 異なる顧客の価値共創ネットワーキング

ネットワークが拡がることで異なる種類のリソースインテグレーターのリソース同士を組み合わせてマッチングするもの。異なるタイプの顧客のリソースインテグレーションの仲介をして橋渡しをするプラットフォーム型のビジネスを指す。これはいま非常に広がってきているもので、グーグル、日本で言えばリクルートなどのプラットフォーム事業を展開しているところが異なる種類のリソースインテグレーター集団を繋いでいく、そういう新しい発想のもとにイノベーションをおこしている世界がこのパターンに相当する。

テクノロジーが制約を解くところに注目する

ここで、リソースの組み合わせに介入するチャンスを考えるときにひとつポイントとなるのがテクノロジーだ。テクノロジーによって分離されること、自由になるもの、制約がなくなるところに注目することがイノベーションにつながるヒントになる、という。

テクノロジーによる分離とは具体的にどういうことか、武山氏は音楽を例に説明する。

「デジタル化がおこる以前の音楽の聴き方は家に限られ、順番もレコード盤のもともとの順序に規定されていたが、デジタル化がおこることによってレコード盤から楽曲の情報が分離されますので、データはどこへでもとんでいけるようになった。デジタル化はモノと情報の分離をおこして、情報の流動性を高める。自由になったデータはどこへいくかというとモバイルだとかオンラインのクラウドだとかにストックされるようになった。すると、好きな順序で、いつでもどこでも聞けるようになった。」

要するに「デジタルの技術が拡がってくることによってそれまでの“どこでいる人はこれをやるためになにをする”という5W1Hの部分が、新たに再編されることになる。こういったリソースの統合の再編というのがイノベーションに共通した力学なのではないか。」(武山氏)

リソースの再編過程にイノベーションの可能性がある、と武山氏は述べた後に、ただここでも重要なのが講演の冒頭でも述べられた「どういう形で実際にお客さんがつかえるようにするか」という顧客の視点や気持ちを考えることであり、「最初の段階でこういったことを問いかけることがサービス発想を提供するためのビジョンをつくることができる」と再度強調した。

武山氏はこのような考えのもと、慶應義塾大学にて企業と学生をつなげながらのサービスデザイン研究を行っているという。同氏のおこなうサービスデザイン研究は、学生(経済学部に限らない)と社会人によって構成されるチームに企業課題に対する新しいソリューションを提供させるもの。ここでの企業課題は食からモビリティまで幅広い分野にわたり、学生がチームで課題解決へのソリューションを考え(およそ8か月間)、発表し、最後に企業よりフィードバックをもらうという流れでおこなわれるという。同研究会で武山氏はこの活動を通じてどのようなソリューションがうまれたかについて事例を挙げながら紹介した。
武山氏は大学が学生と企業のクロスポイントとなるだけではなく、異業種の企業同士が出会う場となり、新たなネットワークがつくられているのかもしれない、と語り、講演を終えた。

《北原 梨津子》

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