田中社長が掲げた「つくる自由」の未来とは…KDDI、国内初のFirefoxスマホを発表

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新製品「Fx0」を発表するKDDIの田中孝司社長
  • 新製品「Fx0」を発表するKDDIの田中孝司社長
  • 記者の取材に答えるKDDI・田中社長
  • 米Mozilla Corporation CTOのアンドレアス・ガル氏
  • 「Fx0」のキーワードは「つくる自由!ウェブ新世紀ハジマル」
  • お気に入りのロック画面をユーザーが自由にデザインできる「Framin」アプリの特徴
  • “トリガー”と“アクション”を組み合わせてユーザーが思い思いのファンクションを端末に登録できる
  • 3Dプリンター用のデータも公開される
  • 「Fx0」の端末は吉岡徳仁氏がデザイン

 KDDIは23日、国内初のFirefox OS搭載スマートフォン「Fx0」を発表した。同日に開催された製品発表会では、KDDIの田中孝司社長が「日本中のギークさんにFx0をいじり倒してもらいたい」と呼びかけた。

 新端末「Fx0」のネーミングは、「0から始まるFirefox OS」というのキーワードが由来で、製品のコンセプトを象徴するキャッチコピーは、「つくる自由!ウェブ新世紀ハジマル」。そこにはHTML5やJava、CSSなどオープンな言語で記述されたFirefox OSの特徴を生かして、モノとWebの関係性をより近づけていく「WoT(Web of Things)」の優位性をアピールしていこうというKDDIの思惑が込められている。

 Firefox OSに注目した背景について田中社長は、「2010年にKDDIの社長に就任してから、“生活をもっと自由に、新しいものにしたい”という思いで事業を展開してきた。2011年12月にFirfox OSと出会い、オープンで軽く、色んなことができるOSの可能性に魅了され、ここからスマホの世界に革新が起きるだろうと実感したからだ」と改めて壇上で説いた。その上で「Fx0」が完成したことついては、「今回はギークな皆様のためだけにスマホをつくってしまった。今さらながらまったく商売のことを考えていない、こんな事で良いのかと自問自答しているが……」と漏らして笑いを誘った。

 田中社長はFirefox OSの特長について、「完全にHTMLで書かれているので、ヒューマンリーダブルでプログラミングが簡単にできる。またハード機器の演算処理負担が軽くできるので、小規模なシステムの上でもOSが機敏に動いてくれる。スマホ本体がサーバーになれる点についても強調しておきたい。これまでは高機能なPCなどをサーバーとして配信していた動画や写真などのコンテンツがスマホから、つないだ機器に配信することができるようになる」と力説した。

 新製品「Fx0」の魅力を、「つくる自由」というキーワードを挙げて語った田中社長。「これまでのスマホは、メーカーがあらかじめ作り込んだものを皆様にお届けしてきた。カスタマイズができるといってもアイコンのデザインなどを少し変えるぐらいのもの。Firefox OSのプログラムはオープンな言語で記述ができるので、クリエイティブな方やエンスージアストの皆様が中味まで自由にカスタマイズできるところが今までに無かったと思う」と話し、他のOSとの違いを強調した。

■端末本体の3Dデータ公開で「つくる自由」を促進

 田中社長は、いま世界中に約800万人のHTMLの使い手がいるとしながら、「今後Firefox OSというプラットフォーム上で、世界規模でさまざまなアイデアが出てくる可能性が秘められている。先日は小学生がモジラ・ジャパン主催のハッカソンイベントに多数参加されたそうだが、小学生を含めて開発してくれる人がたくさんいることをとても頼もしく感じている。未来に開かれた可能性は無限大だ」と期待を寄せた。

 もうひとつの「つくる自由」として、「Fx0」の発売後には本体の3Dプリンタ用データも公開を予定しているという。KDDIがWebサイト上に公開されるCADデータをダウンロードすると、ユーザーが3Dプリンタで取り外し可能な背面パネルを自作して、外観もカスタマイズができるようになっている。「Fx0」の通常版には表面に凹凸の模様が付いた背面パネルが付いてくるが、初期ロットは特別に模様のないプレーンな背面パネルの仕様になるという。外観を遊べる自由度の高さも、田中社長の強調するポイントだ。

 今回の発表イベントに出席した、米Mozilla CorporationからCTOのアンドレアス・ガル氏は、「Firefoxブラウザの時もそうだったが、Firefox OSの世界はMozillaが単独で開発したものではなく、個人のデベロッパーや企業と一緒に築き上げてきたもの。たくさんのパートナーに支援を受けている。Mozillaはパートナー企業としっかりと手を取り合うことで、近接センサーやジャイロなどの技術をデベロッパーに開放していく努力を重ねてきた」とFirefoxの特長を説明した。

 今後についてガル氏は、「かつてモバイルとWebの間には大きな隔たりがあったが、Firefox OSはそれを取り払うことができる。これからはHTML5やJava、CSSなどをベースにしたオープンな世界が広がっていくと信じている。デベロッパーの方々が自由にカスタマイズしながら、ユーザーに直感的な体験を提供できるプラットフォームだ」とコメント。田中社長と同様に大きな期待を口にしている。

 新製品の説明後、田中社長に対して質疑応答と囲み取材が行われ、集まった取材陣からの質問に答えた。

 AndroidでもiOSでもない、Firefox OSという一般には耳慣れないプラットフォームに挑戦した意図について訊ねられた田中社長は、「現在国内のスマートフォン端末の普及率はおよそ50%に達して、レイトマジョリティはまだいるものの、すでに折り返し地点を過ぎているとみている。何年も前にスマートフォンを購入したアーリーアダプタの方たちは、もしかすると既にスマートフォン自体に飽き始めていて、もっと新しい何かを希求しているように感じていた。そういう方たちのために、“自分だけの”個性や趣味性を楽しめるスマホをつくれないかと考えたことがきっかけだ」と分析を交えながらコメントした。

 また「Firefox OSをベースにした今後のビジネスモデル」については、「あまり深く考えていない。auはデザインプロジェクトなど面白いことをやってきたブランドだが、そうしたファンに伝われば良いのではないかという“ノリ”だ」と笑顔で回答。だが、そこには次世代のモバイルビジネスを勝ち抜くためのしたたかな戦略が見え隠れしていた。

■「Fx0」は未来を見据えた事業戦略の第一歩

 国内では通常のスマートフォン端末の需要が頭打ちになってきたと言われて久しい。KDDIが今年1年間にローンチしてきた端末やサービスを振り返ってみても、ハードではキャリア独自端末のisaiを押し進めたり、ユーザーエクスペリエンスの向上という側面では新しい電子マネーの「au WALLET」やVoLTEもスタートしている。

 グループ会社のKDDIバリューイネイブラーを通じてMVNOのフィールドにも進出するなど、「auらしさ」を前面に打ち出しながらこれからの競争を勝ち抜くために、さまざまな手を打ってきたと言える。その延長線上で考えるならば、「Fx0」はKDDIにとって少し先の未来を見据えた戦略事業の第一歩と捉えることができる。

 だとすれば、いまiPhoneやAndoridスマートフォンを横に対抗馬として並べて、スペック比較でFx0の善し悪しを論じるのは見当違いではないだろうか。田中社長は「Firefox OSを新興国向けの安価なモバイル端末のためのOSと見る向きもあるが、私はこのプラットフォームの良いところはオープン性だと捉えているし、そこを訴求すべきだと考える」と述べている。

 筆者は今回の「Fx0」にプリインストールされた「Framin」というアプリに注目した。HTML5などオープンなソースコードで自由にアプリを開発できるところがFirefox OSが掲げる特長の一つだが、そもそもプログラミングをやったことがない、あるいは興味がない人にとっては、そこが魅力でしょ?と言われても何がいいのかピンと来ない。

 この「Framin」というアプリはプログラミングの知識がなくても、「画面をタッチする」「端末を振る」などの“トリガー”と呼ばれる何種類かの入力操作のプリセットに、「音声を出力する」「アプリを起動する」などの“アクション”と呼ばれる端末のリアクションを組み合わせることで、例えば「端末を振って、画面に我が子の写真を表示する」といったファンクションを端末に登録して、機能のカスタマイズを手軽に楽しめるというものだ。

 田中社長も「さまざまなWebや端末ローカル上の素材と、照度センサーや加速度センサーなど端末内部のIOインターフェースを直接つないで新しい使い勝手を生み出せるのがFirefox OSの特徴」と繰り返し強調している。現時点で「Framin」は端末内で完結するアクションまでしか創ることができないが、やがてもし他のFirefox OS搭載のスマートフォンや家電機器とも連携できるようになれば、徐々にその魅力が一般に浸透していく可能性も十分にあるだろう。

 今年の年初にはパナソニックがスマートテレビ向けのオープンプラットフォームにFirefox OSの搭載を検討していることも伝えられたが、例えば「Fx0」の本体を振ってテレビのチャンネルを変えたり、将来的にはエアコンや洗濯機など白物家電も操作できるようになって、それをユーザーが自由にカスタマイズできるようになればスマートフォンの利用価値が変わってきそうだ。

■一般ユーザーのモチベーションを刺激する仕掛けを期待

 記者からは今後のFirefox OSのサービスに関するプランを訊ねる声も上がった。田中社長はこれに対し、「まずポータルサイトを立ち上げて、いろいろなアプリケーションがそこに上がってくるはず。まだ端末は1機種しかないが、反響が良ければ第2・第3のステップに踏み出していけるだろう。今の時点で会社も好調だから“新しい自由”のために今回の挑戦ができたと考えている。発表イベントをやってみて、私は今後もさらに楽しくやっていきたいという思いを強くしている」と述べた。

 アップデートによる機能追加についても前向きであると田中氏は答える。「まだまだFirefox OSには足りないものがある。引き続き当社のギークな社員と一緒に盛り上げていく」として、精力的に行っていく考えを示した。一方で、アプリの開発などについてはアマチュアプログラマーなど外部の“ギークな人々”の自発的な参加を促すとし、参加者がアプリ開発で収入を得られるような仕組みについてKDDIが働きかけるような考えは今のところないという持論を展開した。

また田中社長は、「一緒にFirefox OSをやってくれている方々はお金儲けをあまり考えていない、オープンプラットフォームの可能性に共感してくれている人だと感じている。皆、モバイルを起点にたくさんのデバイスがつながって、世界が変わるという手応えを得ているのではないだろうか」と期待を込めてコメントしながら、今後については「KDDIとしてもまだまだ汗をかきながらやらなければならないことが多くあると思っている。その先にあるビジネスの可能性はきっと大きいはず。私たちが今すべきことは、目先の活動をマネタイズするための方策を練ることではなく、より先の未来を見ながら“つくる喜び”を突き動かしていくことだと真面目に思っている」とした。

 確かにオープンプラットフォームだからこそ、モバイルとエレクトロニクスを今よりもっと有機的につなげていく可能性は十分にある。しかしながら、モバイルに限らず音楽や映画など、万のコンテンツはつくることを楽しむ人々よりも、受け身で楽しみたいという人の方が圧倒的多数だ。

 ギークな人々だけでなく、一般の人々がFirefox OSのプラットフォームに関心を持って“つくる喜び”をシェアするようになるまでには、プラットフォーム上で自分のつくったアプリを公開して販売できるようになるなど、さまざまな形でモチベーションを刺激するための仕掛けが必要になるはずだ。例えばアプリやサービスの開発に貢献した参加者に向けて、KDDIが懸賞付きのコンテストやイベントの機会を提供するのは良いことだし、意義のある活動だと思う。とはいえ、まずは無事国内初のFirefox OSが発表されたことを祝福しつつ、次の展開にも注目していきたい。

田中社長が掲げた「つくる自由」の未来とは……KDDI、国内初のFirefoxスマホを発表

《山本 敦@RBB TODAY》

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