宇宙航空研究開発機構(JAXA)宇宙科学研究所と東京大学の研究者は、金星探査機「あかつき」を用いた電波観測などで、太陽半径の5倍程度離れた距離から太陽風が急激に速度を増していることが判明したと発表した。
今回は、太陽の近くから太陽半径の約20倍離れた場所までの太陽風を調査した。この結果、太陽半径の5倍程度離れた距離から太陽風が急激に速度を増していることに加え、太陽から離れた場所での太陽風の加速には、太陽風の中を伝わる波をエネルギー源とする加熱が関わっていることも明らかになった。
観測では、金星観測のために搭載した超高安定発振器で生成した周波数の、安定した電波をあかつきから送信、この電波が太陽の近くを通過した後、地球に届くのをJAXA臼田宇宙空間観測所で受信した。
太陽風の中にはプラズマの細かな濃淡があり、これが太陽風に流されて電波の経路を横切ると、地上で受信する電波の強度が星のまたたきのように揺らぐ。この揺らぎのパターン(スペクトル)を分析することで太陽風の速度が判明する。また、受信電波の周波数も同時に揺ぎ、これを分析するとプラズマの濃淡の空間構造が判明し、音波などプラズマ中を伝搬する圧縮性の波動を検出することができる。
さらに、太陽表面の活動を把握するため、「ひので」衛星による観測も同時に行った。その結果、閉じたループ状の磁場が、卓越する領域(静穏領域)の上空の太陽風の中を、あかつきからの電波が通過していたことや、ジェットやフレアといった目立ったイベントは起こらなかったことがわかった。
これら観測結果を合わせると太陽表面で作られたアルベーン波が太陽から遠く離れたところで不安定となり、この結果生じた音波が衝撃波を生成する。生成した衝撃波がプラズマを加熱し、太陽風を加速すると推定される。このシナリオは、数値シミュレーションに基づく予想とも合っており、あかつきがとらえた音波は、コロナ加熱の現場を映すものと考えられるとしている。
今後は、コロナホールでの新たな観測や、電波の偏光計測によるアルベーン波の観測との組み合わせなどによって、波動から太陽風へのエネルギー変換過程についての研究を続ける。
今回の研究成果は、あかつきが金星を目指す途中で、金星観測のために搭載した機器を利用して得られた成果であり、長年謎に包まれていた「コロナ加熱問題」を解く鍵になる可能性がある。