【フォード エコスポーツ 試乗】温和なたたずまいに“乗用車”としてのちょうど良さ…古庄速人

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フォードのSUVといえば、なんといっても『エクスプローラー』。しかし世界的にSUVが主力商品となっている現在、乗用車としてグローバルに販売できるクロスオーバーモデルを設定するのは当然の流れだ。

『エコスポーツ』は新興国がメイン市場だが、グローバル展開も見据えたフォードの最小SUV。現行『フィエスタ』と同じ「グローバルBカープラットフォーム」を採用。しかしエクステリアのスタイリングはフィエスタと大きく印象が異なっている。「キネティックデザイン」でまとめられたフィエスタは、シャープで躍動感のある造形が魅力。いっぽうエコスポーツのエクステリアに鋭いエッジは見当たらない。どちらかといえば丸みが強調された、温和なたたずまいを見せる。

エコスポーツはフォードの新しいデザイン言語「ニュー・グローバルデザインランゲージ」に従ってデザインされている。ただしこれはキネティックデザインをリセットして、まったく新しい概念に移ったというわけではない。キネティックデザインをさらに進化させたものだという。

なるほどグリル形状や、水平基調ながらシャープで両端がわずかに吊り上がった切れ長のヘッドライトなど、キネティックデザインの要素を引き継いだ部分が散見できる。急激な変化ではなく堅実な進化というわけだ。これはフォードが明確なブランド哲学を持ち、それを商品に反映させているということを理解させる。

ボディ下部が全周にわたって黒くなっているのは、跳ね上げた小石などからボディを保護する必要があるSUVの機能性を強調したもの。しかしフィエスタと比較してみると、もうひとつ重要な機能を持っていることに気づかされる。もしボディ全体が同色だと、前後の長さにたいしてあまりに上下幅が大きくなり、巨大で重い物体に見えてしまう。ツートーンカラーでボディのボリューム感を減らすという手法も、本格SUVと同じものだ。さらに、スペアタイヤをリアハッチに背負っているのも古典的SUVの記号性。日本市場では1990年代の「RVブーム」で大流行したが、つまりはタフネスさを表現するアイテム。新興国市場を強く意識した車種であることを意識させる。

いささか残念に感じたのは、温和なエクステリアとインテリアがあまり調和していないこと。キネティックデザインから進化したエクステリアに対してインテリア、とくにインパネの造形やグラフィックスは、エッジの効いたキネティックデザインそのもの。インパネ内部のデザインはフィエスタと基本的に共通だから、という事情は容易に想像できる。操作系のデザインは共通でもなんら問題はない。しかし表面的なスタイリングは、エクステリアにあわせてもう少しアレンジしたほうが…というのは贅沢な不満だろうか。

また試乗時には、センタークラスターのシルバーパネルが気にかかった。運転中は常に視界の左下に異物感を覚え、ときに太陽光を反射して少々煩わしかった。もっともこれは短時間の試乗だから気になったのであって、長く付き合えば気にならなくなるのかもしれない。

実際に運転してみると魅力が輝く。乗り心地は乗用車と同じレベルでありながら、着座位置もアイポイントも高いおかげで取り回しも容易、というのは昨今のコンパクトSUVの常識。エコスポーツではさらに「見切りの良さ」が加わる。ボンネットはAピラーへ滑らかな曲線で繋がるよう、両端がやや持ち上がって峰になっているのだが、運転中にもこの峰が常に見えることで、車幅感覚を掴みやすくすることに大きく貢献している。ただ流麗に見せるためだけのスタイリング処理だと思っていただけに、嬉しい驚きだった。

エンジンルームを覗くと、当然ながらエンジンはかなり下のほうにある。それでいてAピラーやフロントガラスはキャビンの高さに合わせているから、エンジン上部とボンネットの間の空間は大きく、造形自由度もフィエスタよりずっと高い。それをうまく活用したデザインだ。

エンジンレスポンスやハンドリングはややおっとりした印象だが、これは穏健なデザインのエクステリアと調和して、親しみやすいキャラクターに繋がっている。日本仕様に限って言えば、スペシャリティカー的魅力を強調したフィエスタよりも「普通のコンパクトカー」としての資質は高いように感じられた。こうなると外見上は、背負ったスペアタイヤだけが悪路を想起させてミスマッチ。これをラゲッジボックスに変更するオプション設定などもあれば、いっそう魅力が高まるのではないだろうか。

■5つ星評価
パッケージング:★★★★★
インテリア/居住性:★★★★
パワーソース:★★★★
フットワーク:★★★★
オススメ度:★★★★★

古庄速人|工業デザイン/トランスポーテーション系ライター
専門学校でカーデザインを学ぶ。同時に在学中から「カースタイリング」誌の編集にも参加し、なぜか卒業後もそのままマスメディアの世界へ。現在はフリーのライターとして、デザイン関連記事を中心に各種メディアで活動中。公共交通や個人移動手段の進化、新興国のモータリゼーション発展などに興味津々。近年は新興国のモーターショーを積極的に視察している。

《古庄速人》

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