桜丘中学・高等学校は、2014年の新入生からiPadを利用した授業を前提に学校指定のiPadを導入。教員や生徒が授業でどのように活用しているのか、全国から多くの教育関係者を招き、公開授業を通じた活用事例紹介を行った。
この日は、中学の地理と英語、高校の数学、化学、英語の公開授業が行われた。また、クラブ活動やホームルームでの活用事例も紹介され、授業以外で生徒たちがどのようにiPadを使っているのかも注目された。
数多く公開された授業の中、今回は中学1年生の地理と高校1年生の化学の授業を取材、その様子や公開授業後の質疑応答についてレポートする。
通常の授業に自然に取り入れられるタブレット
藤岡和宏教諭による中学1年生の地理の授業の内容は、気候風土の違いによる住宅の構造・形・材料の違いについて学ぶものだった。授業の前半は教科書、プリント、板書を中心に進められ、生徒はノートをとりながら普通に授業を受ける。この時iPadはしまわれたままの状態だった。
授業の内容が、住宅から食物に移ったときがiPadの出番だった。食物はその土地の気候・風土だけでなく宗教によっても変わってくるため、その例としてイスラム教とヒンドゥー教をあげ、藤岡教諭は生徒にイスラム教についての画像検索をさせた。続けてGoogle Earthでメッカのカーバ神殿の位置と神殿の写真などを検索させながら、イスラム教や他の宗教との関係などを学習していた。検索エンジンは特に指定せず、Google、Yahoo! JAPANなど生徒ごとに好きな検索エンジンを利用していた。
iPadとプロジェクターを効果的に利用
宮崎学教諭が担当する高校1年生の化学の授業では、化学反応とイオン化傾向について。宮崎教諭の授業はプリントをベースに行うため、学習内容についてのプリントが配布されていた。このプリントはPDFでも配布されており、生徒のiPadにもダウンロードされている状態で授業は進んだ。
板書でも黒板に投影したプリントを活用し、投影されたプリントの空欄部分に先生が板書で答えやポイントを書き込んでいく。生徒はそれを見ながら、自分の紙のプリントの空欄を完成させたり、iPad上のPDFファイルにテキスト入力や手書きメモなどの機能で書き加えていく。紙に書き込むかPDFファイルを利用するかは生徒の好みに任せられており、中には手書きで書き込んだプリントやノートをタブレットのカメラで撮影し、画像データで管理している生徒もいるという。
導入機器も活用方法も至ってシンプル
どちらの授業も、電子機器はiPadと卓上プロジェクターのみだった。先生は卓上プロジェクターを利用し、黒板に自分のiPadの資料や動画などを表示させていた。生徒端末の画面を黒板に投影したいときは、そのタブレットを借りて直接プロジェクターにつないでいた。アドホックなやり方だが、その分操作ミスやトラブルも少なく、電子黒板などのシステムに頼る必要のない効果的な印象だ。
生徒はデジタルと紙の両方を活用
桜丘中高では、今年の新入生の説明会や入試案内から、タブレット導入を謳い、生徒が学校指定のiPadを購入することを前提に募集を行った。実際の活用は5月からだそうだが、授業などでiPadを利用して、導入前と変わった点や効果を感じた点に関しては、メッセージ機能や資料をファイルで配布できる機能により、学校やクラスの連絡事項の漏れがなくなったことをあげた。授業の中では、板書の時間を減らす、またはなくすことで授業の密度を上げることができるという意見もあった。ただし、板書やノートをとる作業については、先生ごとの方針によるようだ。
先生から見ても、生徒はiPadの機能をうまく活用しているという。カメラをメモがわりに使う生徒は多く、教科書を忘れた生徒が友達にその日の授業範囲のページをカメラで撮影させてもらい、授業に使ったりという例も報告された。
タブレットの導入により、ノートをとったりと文字を書く時間が減る印象があるが、紙に書かないと記憶に残らないと述べる生徒も多い。生徒の好みや学習方法、用途などによってタブレットと紙のノートなどの使い分けができているようだ。中には、iPadは静電容量型のタッチスクリーンのため、細かい文字、細い線が書けないという意見も生徒側から出された。
生徒に、タブレットの活用を通じてどのような授業や機能がよかったかを尋ねた質問には、Google Earthは地図帳より便利、動画は物理(等速直線運動など)の勉強に効果的、Cyber Campusの掲示板機能で参考資料や動画のURLをみんなで共有して予習・復習に役立てることができるとなどと評価していた。
欲張らずリーンスタート(小規模導入)で成功を積み上げる
桜丘中高で使用しているiPadは、Wi-Fi接続やコンテンツフィルタリングを学校仕様にした設定がされており、学校指定のアプリやツールがインストールされたものとなる。授業で使う主なアプリは、Puffin Browser(Flash対応)、iBooks(PDF他保管用)、Keynote、Google Earthなどだという。MDMソフトや指定プロファイルの管理のため、私物ですでにiPadを持っていても、学校指定の端末を購入する必要がある。
なお、学校指定とはいえ端末は生徒の私物であるため、iPadのカバーなど各自が好みのデザインの製品を利用していた。生徒の個性が発揮され、自分の端末への愛着も生まれることだろう。これも、私物端末を利用するメリットのひとつだといえる。
取材を終えて感じたのは、桜丘中高のできるところから確実にというポリシー、まず使ってみようという姿勢が強く感じられた。そのため、タブレット導入はこうあるべき、というような規制に縛られることなく、先生方も自分の授業スタイルや方針を大きく変えず、使えるところで活用している。
通常、タブレットなどの一斉導入となると、機器のメンテナンス、保管、さらに授業中のトラブル対応のため、教員以外にICT支援員の存在が欠かせないとされている。桜丘中高でも端末によってはインターネットにつながらないといったトラブルも発生するようだが、授業やカリキュラム自体が、タブレットの活用を前提としていないため、教師の柔軟な対応を可能にしている。
小学校や公立校では、このようなリーンスタートは、均一な教育の確保、公平性の確保、教師側の態勢、準備、セキュリティ対策など要件が複雑・多岐にわたるため難しいと思うが、私学、かつ中学・高校ならば、保護者や生徒への説明や合意形成をしっかり行えば参考になる部分が多いと感じた。