宇宙最強の磁石天体が変形…東京大学研究チームが兆候発見

宇宙 科学
X線 (紫;米国チャンドラ衛星) で見た、かに星雲の画像を、可視光と重ねたもの。中心の白い点がパルサー(出典:東京大学)
  • X線 (紫;米国チャンドラ衛星) で見た、かに星雲の画像を、可視光と重ねたもの。中心の白い点がパルサー(出典:東京大学)
  • ラグビーボールの動き。対称軸回りの自転と、対称軸の首振りがある(出典:牧島一夫)

東京大学の牧島一夫教授などの研究チームは、宇宙で最強な磁石天体が、磁力でわずかに変形している兆候を発見したと発表した。

研究チームは、超強磁場を持つと考えられる中性子星の一種において、回転に伴う8.69秒のX線パルスの到着時刻が、約15時間かけて進み遅れする現象を発見した。

これは強い内部磁場により中性子星が、わずかにレモン型に変形、回転軸のふらつき(歳差運動)が発生した結果であると結論付けた。

中性子星のもつ強い磁場のうち、内部に隠れた部分の強度を推定した初めての成果で、中性子星で起きる極限物理現象を理解する上で、大きな進展であるとしている。

発表者は、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の牧島教授(理化学研究所グループディレクター)、東京大学大学院理学系研究科物理学専攻の中澤知洋講師、東京大学大学院理学系研究科附属ビッグバン宇宙国際研究センターの平賀(佐藤)純子助教。

宇宙で最も高密度な天体である中性子星は、太陽程度の質量を持ちながら半径は10kmで、表面での重力は、ブラックホールを除くと宇宙最強と言える。一般に強い磁場を持つ中性子星の中でも、特に磁場の強いものは「マグネター」と呼ばれ、磁気エネルギーを消費してX線を放射すると考えられている。

東京大学の牧島教授らと理化学研究所の研究グループは、宇宙航空研究開発機構(JAXA)のX線衛星「すざく」を用い、4U 0142+61と呼ばれるマグネターを観測した。この結果、低エネルギーのX線(軟X線)では中性子星の回転に伴うパルスが8.69秒の一定周期で検出できたのに対し、高エネルギーX線(硬X線)ではパルスの到着時刻が、約15時間かけて0.7秒ほど進み遅れしていることを発見した。

これはこの天体が球形から0.01%ほどレモン型に変形し、そのため天体の対称軸が首振り運動(自由歳差運動)をする結果と結論付けた。軟X線は、軸の近くから発生しているため、パルス間隔が一定であるのに対し、硬X線は少し外れた場所で放射されるため、首振りに伴いパルス間隔がふらつくと解釈できる。

強い重力があるにもかかわらず、このように変形が生じるのは、星の内部に潜む強い磁場磁力による可能性が高い。変形量を説明するのに必要な内部磁場の強度は1012テスラと、考えうる極限に近い値だったとしている。中性子星の内部に潜む磁場が観測から推定されたのは、世界初。

研究グループは今後、「すざく」などで観測された他のマグネターで、同様の自由歳差運動が起きている可能性を探る計画。

また、研究グループは「すざく」後継機となる「ASTRO-H衛星」を2015年度に打ち上げるため、諸外国の研究者と協力し、建造に注力している。同衛星は「すざく」より10~100倍も高い硬X線感度を持つため、「すざく」で検出された自由歳差運動の様子の詳細を解析できると期待され、変形がレモン型であるという確証も得られる可能性がある。これにより中性子星の磁性の研究が大幅に進む可能性がある。

《レスポンス編集部》

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