【中田徹の沸騰アジア】輸入車増税でスリランカ市場低迷、インド企業が“光り輝く島”への進出模索

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スリランカ自動車市場シェア(2013年1~6月)
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  • Getty Images
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かつてセイロンと呼ばれたスリランカは、『インド洋の真珠』と賞される美しい島国だ。巨象インドの隣にあって、その影に飲み込まれている印象もあるが、内戦終結から4年が過ぎたこの国では6~8%の高度経済成長が期待されている。自動車をめぐっては、輸入車増税の影響で内需市場が落ち込む一方、四輪車工場の設立を目指す動きが出てきた。

高度成長時代に突入

スリランカとは、現地の言葉で『光り輝く島』を意味する。多様な文化と歴史が織り成す港町・コロンボには、コロニアル調の建造物、近代的な高層ビル、象のいる仏教寺院、赤と白のモザイク柄に彩られたイスラム寺院、活気溢れる市場、洒落た雑貨屋やレストラン、美しいビーチがあり、訪れる人々を魅了してやまない。コロンボを離れれば、見渡す限りの海岸線が伸び、のどかな田園風景が広がり、豊かな熱帯雨林がある。セイロン島南部の内陸部は紅茶の産地として有名だ。

人口は2000万人強である。観光業と農業、軽工業が主要産業で、1人当たりGDPは2900ドル弱(2012年)。反政府組織『タミル・イーラム解放の虎(LTTE)』のリーダーが2009年5月に死亡し26年間続いた内戦が終結した後、インフラ整備など経済発展に向けた動きが着実に進んでいる。2012年の実質GDP成長率は6.4%となり、前年の8%台から鈍化したが、2013年1~3月には7.5%に戻した。中期的にも7%前後の高度成長が続くと期待されている。

輸入車増税で需要縮小

ほぼ全量が輸入車で構成されるスリランカ自動車市場(整備済み車両含む)は、セイロン自動車販売者協会(CMTA)によると、2010年の3.6万台から、2011年の8万台強へ大きく伸びた。需要拡大を支えたのは、2010年6月に行われた物品税率の引き下げだ。しかし、2012年4月に輸入車に対する物品税が引き上げられると市場は縮小に転じ、2012年には前年比11%減の7.1万台となった。2013年1~6月については、前年同期比52%減の2.3万台となり、さらに落ち込んだ。新車に限ると、2012年に過去最高の5.2万台となったが、2013年1~6月に6割減の1.4万台に縮小した。

上位ブランドは、2013年1~6月時点で、トヨタ、タタモーターズ、マヒンドラ&マヒンドラ、ホンダ、三菱自、マルチスズキである。整備済み車両(中古車)の販売規模が大きいトヨタは、市場全体で25%のシェアを持つが、新車に限ると5%弱にとどまる。新車市場では、インドからの輸入車を軸に攻勢をかけているタタ、マヒンドラ、マルチスズキの3社の存在感が大きく、3社合計で63%のシェアを握る。一方で中国車のシェアは小さく、インフラ投資などで中国企業が存在感を示しているのとは対照的だ。

現地組立産業の産声

スリランカでは、輸入車に対して関税、港湾・空港開発税、物品税、付加価値税(VAT)などが課せられる。1.0~1.6リットルのガソリン車を例に挙げると、2012年3月までは、関税30%、物品税43%、VAT 12%など合計129%が課せられていた(タックス・オン・タックス含む)。しかし、2012年4月に物品税が85%に増税され、諸税合計では200%に跳ね上がった。輸入車増税の背景には、渋滞抑制と燃料需要のコントロールを図りたいとの政府の考えがある。

こうしたなか、輸入車税対策を主眼に、マヒンドラ&マヒンドラは2012年秋に四輪車工場の設立を目指す考えを明らかにした。マルチスズキも2013年半ば現在、車両組立に関する事業化調査を進めている。これらの工場計画が実現したとしても、生産台数は数千台/年にとどまり、ほとんどの組立用部品をインドから輸入する形になるだろう。インドやタイの自動車生産と比べると100分の1にも満たない規模だ。とはいえ、スリランカの四輪車産業が今まさに産声を上げようとしている、と考えると、なんだか応援したい気持ちが膨らむ。

《中田徹》

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