【福祉車両オーナー座談 第3回】誰もがいつかは通る道…福祉車両がもっと身近な存在になるために

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ポルテ ウェルキャブのデモンストレーション
  • ポルテ ウェルキャブのデモンストレーション
  • Cさん 神奈川県在住 トヨタ ヴォクシー 助手席リフトアップシート車 Bタイプ(2011年式)を現在所有。
  • Eさん 東京都在住 トヨタ ノア 助手席リフトアップシート車 Bタイプ(2008年式)を現在所有。
  • 座談会の様子
  • Aさん 埼玉県在住 トヨタ ポルテ(旧型・2009年式)サイドアクセス車 Bタイプ 手動介護式を現在所有)
  • Bさん 東京都在住 スズキ MRワゴン(旧型・2007年式)を購入後、左足アクセル/ブレーキ+車いす仕様に改造。現在所有
  • Dさん 東京都在住 ダイハツ ムーヴ・コンテ(2007年式) 車いす仕様車を過去に所有
  • 座談会の様子

福祉車両のオーナー5名に集まっていただき、購入の経緯から、納車されて初めてわかった使い勝手の感想まで、意見を語ってもらう座談会の第3回。今回は、購入後の使い勝手や福祉車両の社会的認知への課題がテーマだ。

座談会参加メンバーの年齢は46歳から61歳で、いずれもご両親または配偶者を介助するために福祉車両を購入した方々。
Aさん(埼玉県在住・女性、夫の介護のため、トヨタ『ポルテ』(旧型)を新車で購入、現在所有)
Bさん(東京都在住・女性、母の介護のためスズキ『MRワゴン』(旧型)を中古車で購入し改造、現在所有)
Cさん(神奈川県在住・男性、妻の介護のためトヨタ『ヴォクシー』(現行型)を新車で購入、現在所有)
Dさん(東京都在住・女性、父の介護のためダイハツ『ムーヴコンテ』を新古車として購入、過去に所有)
Eさん(東京都在住・男性、母の介護のためトヨタ『ノア』(現行型)を新車で購入、現在所有)

◆買って良かった福祉車両、トラブルもなし

晴れて納車となった福祉車両だが、実際に使ってみての感想はどうだったのか。介助者の負担を減らすことができただけでなく、介助される側の心理的負担が軽くなったことも大きいと、参加者は一様に語る。

奥様の介護のためにトヨタ『ヴォクシー』を購入したCさん。前車は『ヴィッツ』で、奥様が退院してから福祉車両の納車までおよそ半月の間、外出はそのヴィッツでおこなっていたという。

「妻は比較的大柄なこともあり、車への乗せ降ろしは3人がかりでした。リフトアップシートならそれが一人でできるようになったので、移乗に際しての負担が解消されたことはとても大きいですね。妻も、今までは我々に負担をかけるので気を使っていましたが、気軽に外出できるようになりました」。また、納車と前後して、Cさん夫妻は息子夫婦と同居するようになり、ヴォクシーはお孫さんも含めたファミリーカーとなった。「家族でのおでかけが楽しみになりました」(Cさん)。

また介護しているお母様は「ドライブが大好き」というBさん。「私のMRワゴンの助手席シートは手動で引き出す方式なので、母を助手席に乗せる時は椅子を手で回して足を上げてもらう必要があります。最初はお互いに不慣れで、母も上がらない足を上げるのは大変でした」と納車直後の苦労を語る。だが「それでも、外出は断然楽になりましたし、今はだいぶ慣れたのでそんなに苦にはなりませんね。運転にはもう慣れて母も怖さも感じなくなったようで、暇さえあればドライブしていますよ」とのこと。外出への精神的負担がなくなったことは、何ものにも代えがたいようだ。

また、購入後のシートや車いす収納機能などのトラブルの有無についても尋ねてみたところ、全員「トラブルはこれまでなかった」との回答。車検や点検などのメインテナンスについては、通常の車両と同じように定期的にディーラーへ整備に出しているオーナーがほとんどだった。

◆使っていて初めて分かったことも

トヨタの『ポルテ』を購入したAさんは、事情がちょっと違うようだ。「車が来た時はとても嬉しかったですね。車に乗せる際、夫を乗り移らせるために待たせる事が多かったのですが、この車があれば簡単に主人をどこにでも連れて行けると思いましたから」(Aさん)。

とはいうものの、使い始めてから課題もあったようで、「移乗は今までより楽にはなりましたが、夫は自分で足が上げられないため、私がサポートする必要があります。だから自分1人でリモコンを使って助手席に乗る事ができないのです。また、車いすを荷室に引き上げるクレーンもあるのですが、車いすが半電動タイプで重量があるため、畳んで乗せることがなかなかマスターできなくて苦労しました」(Aさん)。移乗のコツや車いすの収納などで使い方を習得するには、かなりの時間を要したという。

ダイハツの『ムーヴコンテ』の福祉車両を所有していたDさんも「以前は父も、なかなか車に乗り移れないことに癇癪をおこすこともありましたが、コンテが来てそれがなくなりました」。しかし、Dさんのお父様は数年前に他界したため、コンテは手放してしまったそうだ。しかし、今では手放したことを少し後悔しているという。「まだ健在な母の足腰が少し弱ってきたので、母との移動を考えると、やはり楽に移乗できる福祉車両は魅力的ですね。コンパクトさと維持費を考えて次も軽自動車になると思いますが…」とDさん。なお、下取りについてDさんに尋ねたところ、同型の標準車と同程度で、とくに不利な査定ではなかったという認識だ。

また、母の介護のためにトヨタ『ノア』を所有するEさんは、自分だけでなくヘルパーが運転することも多いという。「大柄に見える車ですが、視点が高く運転しやすい、とヘルパーさんも言ってくれています。もちろん、福祉車両としての機能、母を円滑に安全に運べる、ということが全うできているので期待通りだったと思います」と満足げだ。

◆「自身の身に降りかかったら初めて気づく」ではいけない

このように、福祉車両の機能性について満足しているというのは参加者全員の意見だったが、一方で、福祉車両に対しての社会的な認知が不足している、という意見も挙げられた。Cさんの声に耳を傾けてみたい。

「SAやショッピングセンターなどでは、施設の入り口に近い所に福祉車両用の駐車スペースがありますが、駐車スペースが少ないと感じます。優先駐車場が埋まっていて。やむを得ず一般の所に停める時に、一般車の駐車スペースに入れてしまうとシートが横に大きくせり出るリフトアップシートが使えなくなってしまいます。入り口に近くなくてもいいから数台分以上の駐車スペースが欲しいところです」(Cさん)。

駐車場で停める場所を探す苦労は、参加者の多くが同意する点だった。

また、Aさんは「もう少し周りの人がケアしてほしい」とも語る。「優先駐車場でも、クローバーも車椅子のステッカーもない車が、ただ近いというだけの理由で場所を占拠してしまう、というケースをときおり見かけます。これは悲しいですね」(Aさん)。

「自分の父や母、あるいは妻や夫に介助が必要になるという、自分の身に降りかかってみないと分からないというのは確かにあります。実際、私も妻が倒れるまでは(福祉車両を)見たことも、調べた事もありませんでしたから。でも、実際に駐車スペースや乗せ降ろしで困っている人は沢山いると思うので、こうした車の存在を世の中に知らしめていく必要があると思います」(Cさん)。

◆福祉車両をもっと身近な存在に

またDさんが語るのは、福祉車両をもっと身近な存在にするべき、ということだ。

「リフトアップシートには自分でもたまに遊びで乗りますが(笑)、本当に楽ですね。この便利さを多くの人に知ってほしい。これからの高齢化社会の中で、足腰が弱ったお年寄りにも最適な車両だと思います。ただ、福祉車両あるいは介護車という名称は、車いすを載せる車というイメージが強いので、その点を改めるように知らしめるべきです。また、現状では車いすを乗せる仕組みがないと消費税が免除されませんが、リフトアップシートだけでも何らかのコストメリットが得られれば、もっと普及するのでは」(Dさん)。

Eさんは、「ユーザー目線で提案できるセールスマンが重要」という。「実は最初に訪れたディーラーで福祉車両についての相談をしたところ、リフトアップシートや車いすの収納といったこちらが求めている機能の説明よりも、リアモニターだとかシートアレンジといったその車自体の説明ばかりをしていたんですね。それは違うのではないか、と」(Eさん)。

とはいえ、様々な仕様のある福祉車両のことを全て分かったうえで、ユーザーのニーズに合致した車両を提案できる営業スタッフの育成はなかなかできるものではない。Eさんは、「やはりディーラーとメーカーが一体になって、営業スタッフの教育とともに、福祉車両の存在価値とブランドを高めて裾野を広げていく活動をしないといけないのではないかと思います」と提言する。

Bさんも、福祉車両によって得ることのできた移動の自由の喜びを多くの人びとに知ってもらいたいと語る。「人はだれでも老いますし、病気やけがで足腰が弱ってしまう可能性は誰にでもあります。わたし自身も事故で足をけがしていましたし、母も介助なしでは車に乗り込むことができませんでした。でも、福祉車両のおかげで私でも移動の自由を享受できるようになり、母とともにドライブを楽しんでいます」(Bさん)。

《まとめ・構成 北島友和》

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