【中田徹の沸騰アジア】現調率90%超のトリックと真の現地化

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現調(現地調達)、現調率、現調化。アジアの自動車産業をみていると、よく聞く単語だ。

現調とは、輸入などに頼らず、現地で部品等を調達することである。自動車で言えば、ある車両(完成車)の生産に必要な部品をどれだけ現地調達(現地化)しているか、ということである。また、部品(例えばブレーキシステム)で言えば、「部品の部品」(例えばブレーキドラムなど)をどれだけ現地で調達しているか、ということになる。

アジアの新興市場では、中間層の拡大により自動車需要が高まっており、コスト競争力の高い製品に人気が集まっている(ただし安かろう悪かろうではない)。こうした需要を取り込むため、自動車各社は開発・設計、調達・生産などの各段階でコスト削減に取り組んでいるわけだが、調達・生産面でのコスト削減策のひとつが現調強化である。

■現調率90%、数字のトリック

ASEANやインドなどで販売される自動車について、「現調率--%です』と発表されることがある。少し昔の話だが、例えば、トヨタが世界戦略車として2004年8月に生産開始したIMVシリーズ(『ハイラックス』、『イノーバ』など)について、タイ生産車の現調率は最大で96%である。いすゞがタイ工場で生産する1tピックアップについても最大95%となっている。ホンダが2008年9月に投入した現行『シティ』をみると、タイ工場での現調率は最大93%。また、近年タイで生産開始された日産『マーチ』やホンダ『ブリオ』なども9割程度といわれる。インドでは、2011年8月に全面更新されたマルチ・スズキの新型『スイフト』が95%以上、日産マーチ85%、などといわれる。例を挙げればきりがない。

新興国市場を狙ったこれらの戦略車には、価格競争力がより厳しく問われるが、輸入部品を減らし現地化を進めることで、輸送費や輸入関税といったコスト削減が図られている。また、規模がなければ現地化によるコストメリットを期待しにくいが、内需育成に加え、自由貿易協定(FTA)を活用し輸出先を確保することで、規模の問題への対応がなされている。この典型的な例がトヨタIMVシリーズである。世界最適調達ネットワークの構築が目指されたIMVプロジェクトでは、タイを中心とするASEAN地域がマザー工場と位置づけられ、ASEAN各国間の相互補完関係に支えられながら現調率90%超(ASEAN域内)を達成した。

しかし、これらの数字にはある種のトリックがある。というのは、その計算方法が国やメーカーなどによって異なるケースが多いためだ。アジアで語られる現調率について、多くの場合、完成車メーカーが現地の1次部品メーカーから買った部品の価格をベースに計算されている。言い換えれば、1次部品メーカーが輸入した部品(パススルー品などと言われる)・材料などは無視されており、こうした分を反映させた実質的な現調率は90%といった数字をかなり下回る。実質的な現調率についてはほとんど明らかにされないが、2012年現在、ASEANの主力車種で概ね6~7割と推定される。

■「真の現地化」が進行中

日本車のプレゼンスが極めて高いASEAN。6~8年前までに多くの主力車種の見た目の現調率が9割程度に上昇したが、最近では「真の現地化」を目指す取り組みが進んでいる。「真の現地化」とは、部品の部品、原材料などを含め実質的に現地化することだ。自動車生産規模の拡大に伴い、部品の部品などを生産する日系2~3次部品メーカーが相次いでタイやインドネシアなどへ進出。また、生産工程の現地化深化も進んでおり、例えば「組立に加えて、鋳造や機械加工などの製造工程を新たに導入する」といったようなケースがこれに含まれる。こうした取り組みは最近数え切れないほどあり、実質的な現地化に貢献している。

一方、コスト競争力を厳しく問われるインド。現地事業の歴史が比較的短い外資大手などが現地化強化の取り組みを加速している。トヨタは、2012年8月にインド南部のバンガロールにおいてガソリンエンジンの現地組立を開始しており、そのエンジンは小型乗用車『エティオス』に搭載される。エティオスの現調率は2010年末の生産開始時点で約7割と言われていたが、エンジンの現地化により8割程度にまで上昇するとみられる。また、エンジン部品の鋳造、機械加工を今後開始する予定。ホンダのインド子会社は、2011年のブリオ生産開始に合わせて、シリンダーブロックなどの現地生産に着手しており、これによりブリオの現調は8割を実現。また、ブリオではインド製の鋼板を採用し、コスト競争力の強化が図られた。このほか日産、VWなども同様の取り組みを実施あるいは計画している。

■現調強化の影響

8年ほど前に新興国戦略車を主眼に世界最適調達の推進が叫ばれ、ASEANやインドから欧州や南米などに部品を供給する大きな流れが生まれた。そして円高が続く近年、日本にもその波が押し寄せている。自動車メーカーのコスト競争力向上(現調強化)を支えるためにASEANやインドなどに進出した日系部品メーカーや完成車メーカーが、現地事業で培ったコスト競争力の高い部品を日本にも輸出しているためだ。空洞化が進む日本の製造業にとって、強力なライバルとなっている。
《中田徹》

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