【池原照雄の単眼複眼】業績上方修正も競争力削がれる日本メーカー

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8社のうち7社が純利益を上方修正

乗用車メーカー8社の2011年3月期・第2四半期累計業績は、三菱自動車を除く7社が最終損益で黒字となった。通期見通しでは上期の堅調な業績から、同様に7社が純利益予想を上方修正した。

しかし、解消の糸口が見えない円高によって下期の収益は大幅に細る。今期はともかく、来期には再び業績悪化に見舞われる可能性が高く、日本の自動車産業の競争力低下が顕在化することになろう。

第2四半期累計業績は全社が期首時点の予想を上回り、最終損益ではトヨタ自動車、マツダ、富士重工業(スバル)の3社が上期としては2年ぶりに黒字に転換した。唯一45億円の赤字となった三菱も期首時点の赤字予想90億円を半減させている。

上期は円高が進行したものの、日本市場がエコカー補助金効果で高水準の伸びとなったほか、中国など新興諸国の需要が引き続き大幅に拡大したのが寄与した。2008年9月のリーマンショック以来、非常時対応で臨んだ固定費の削ぎ落としも効いた。

乗用車8社の11年3月期業績予想
メーカー:売上高 / 純利益 / 純利益修正額
●トヨタ:19兆円(+0.3%)/ 3500億円(67.1%)/ 100億円増
●ホンダ:9兆円(+4.9%)/ 5000億円(86.3%)/ 450億円増
●日産:8兆7700億円(+16.7%)/ 2700億円(6.4倍)/ 1200億円増
●スズキ:2兆5500億円(+3.3%)/ 350億円(21.0%)/ 50億円増
●マツダ:2兆3000億円(+6.3%)/ 60億円(−)/ 10億円増
●三菱:1兆9000億円(+31.4%)/ 150億円(3.2倍)/ 据置
●富士重工:1兆5900億円(+11.3%)/ 500億円(−)/ 270億円増
●ダイハツ:1兆5500億円(−1.0%)/ 440億円(2.1倍)/ 230億円増

◆569億円にとどまるトヨタの下期営業利益

前年の赤字から一気に最高益更新へと転じた富士重工は、主力の北米で前年同期比33%伸ばしたのをはじめ、欧州、中国では8割を超える伸びとなり全地域で販売増を確保。円高による159億円の営業減益要因をカバーした。

各社の通期純利益予想は150億円を据え置いた三菱を除き7社が従来予想を上方修正した。とくに日産自動車は1200億円と最大の増額修正を図った。同社は中国や東南アジアの新興諸国需要が好調に推移しており、世界販売計画は期首時点より30万台多い410万台と過去最高に見直した。

海外販売が拡大している富士重工とダイハツ工業も従来の予想より2倍強に上方修正した。だが、各社の上方修正は総じて上期の“貯金”が想定以上に積みあがったことを反映したものだ。

1ドル=80~81円レベルと過去最高水準で推移する円高が下期の収益を大きく圧迫する。エコカー補助金の終了によって日本市場が反動減に見舞われるなど販売環境もまだら模様だ。トヨタの下期営業利益予想は568億円にとどまる。大幅な上方修正を打ち出した日産も約1500億円と、上期比でほぼ半減する。

◆景気回復はおろか一段の雇用悪化も

トヨタは第1四半期決算の時点で、1ドル=90円水準において単体の年間世界販売が700万台でも「損益分岐をクリアできる体質になった」(伊地知隆彦専務)と評価していたものの、為替レートはさらに10円幅の円高に振れた。

第2四半期決算を発表した同社の小澤哲副社長は現状の為替レートについて「トヨタの競争力を超えた水準」と、異例ともいえる悲鳴をあげた。トヨタが半期で600億円規模の営業利益しかあげられない姿は、同社のみならず日本の自動車産業の競争環境が著しく悪化している現状を映している。

こうした状況が続けば、国内景気の回復はおろか、新卒者を含む雇用情勢の一段の悪化が確実だ。通貨安競争への是正対応、法人や自動車税制の改革、自由貿易協定の促進など、政府と金融当局はあらゆる政策を断行するべき段階にきている。

《池原照雄》

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