新型『マーチ』はタイ製ということで懸念された安っぽさはなかった。室内の仕上げはほどほどだが、3気筒エンジンはなめらかで遮音も行き届いているし、副変速機つきCVTのおかげもあって3シリンダーらしいパンチ力が心地いい。
乗り心地はストローク感があってしっとりしている。燃費志向のタイヤが頼りない感じもするけれど、相応のグリップを持つ銘柄に履き換えれば、満足のいく走りが手に入るはず。
アイドリングストップの制御も好印象だった。ブレーキをゆるめるだけでエンジンを掛け、発進のタイムラグをなくした一方で、停車中に室温が上昇しても勝手に再スタートせず、気になったらステアリング軽く切って始動させるというプリミティブな方式にした。
暑さ寒さの感覚は乗る人によって違う。無理に電子制御に頼らず、人間の感性を優先した点が、いい意味で日本車らしくなくていい。
気になるのはやはり生産面だ。マーチがデビューしてまもなく、トヨタが『プリウス』をタイで作ると発表した。マーチのような低価格車を新興国生産にするのは欧米メーカーもやっているが、彼らはプレミアム性の高いモデルは母国製にこだわっている。デフレ基調の日本で、そういう歯止めが効くかどうか。悪い方向へ転ぶと、空洞化の主犯に祭り上げられかねない。
■5つ星評価
パッケージング:★★★★
インテリア/居住性:★★★
パワーソース:★★★★★
フットワーク:★★★
オススメ度:★★★★
森口将之|モータージャーナリスト
試乗会以外でヨーロッパに足を運ぶことも多く、自動車以外を含めた欧州の交通事情にも精通している。雑誌、インターネット、ラジオなどさまざまなメディアで活動中。著書に『クルマ社会のリ・デザイン』(共著)、『パリ流 環境社会への挑戦』など。