気温5度。大会会長の石原都知事の言葉も震えるような冷たい雨の中のスタートだった。
「とうとうこの日が来ました。東京以外からもたくさんの人たちが来てくださいまして、東京全体がひとつになる画期的な日です。主催者からのお願いは、無理をしないこと。途中で倒れたらしようが無いから、無理をしないでがんばってください」
石原都知事が「無理はするな」といっても、雨は体を冷やし、晴れた日よりランナーを苦しめる。初めての東京マラソンも、こんな雨の中だった。参加者の成否を握るのは、スタミナよりも雨による寒さ対策だ。
スタート15分前から音楽が流れ雰囲気を盛り上げるが、3万5000人の出走者は走っている時と同じ服装で、1時間以上前から会場でスタートを待っていなければならない。
アスリート競技であれば、ウォーミングアップして体を慣らすこともできるが、アジア最大の市民参加型マラソンは、雨が降ると着替えする場所にも事欠く。最寄りの地下鉄「都庁前」駅では「駅の中で着替えをしないでください」というアナウンスが流れるほどだ。
スタートまで待機するランナーの行列は東京都庁第一庁舎から第二庁舎の前を通過し、新宿公園の最後尾まで500メートル以上続く。仮にウォーミングアップをして備えても、スタート地点で体は冷え切ってしまう。
さらに上着を着て防寒しようにも、付き添いが許されないスタート地点では、脱ぎ捨てた物はその場に置き去るしかない。今回のように雨だと、傘も雨具もゴミにするしかない。寒さと雨対策は簡単ではないのだ。
昨年に続き2回目の出場だという男性は、東京マラソン流の”冷え”対策をこう語る。「スタートの合図からスタート地点に着くまでがウォーミングアップですよ」。
東京マラソンは自己申告の記録が遅いほど後方からのスタートになる。タイムは靴ひもに取り付けた計時チップで、スタート地点を通過したときから計測が始まるから、離れたスタート場所を逆手に取って有利に運ぶ作戦だ。
手袋の上に使い捨てのビニール手袋重ねて、指先が冷えるのを防ぐ。ゴミになってもいいようにゴミ袋をかぶるなど、市民ランナーはさまざまに工夫を凝らしている。不便を楽しむ心も東京マラソンには必要だった。