【井元康一郎のビフォーアフター】CO2削減、頑張ってもこれだけ…やるべきことは

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鳩山由紀夫首相が国連で掲げた「温室効果ガス25%削減」が話題を呼んでいる。省エネの進んだ日本で、温室効果ガスを90年比で25%、05年比では実に3分の1近く削減しなければならない。しかも時限は2020年という近未来だ。

温室効果ガスの中で量的に多いのはCO2である。そのCO2を劇的に減らすためには、炭素系燃料、中でも石油・石炭系燃料を減らす脱石油を目指す必要があるが、10年では技術革新も社会インフラの転換も到底間に合わない。経産省や環境省はこまめな節電やクルマの使用抑制など、生活を変化させてCO2を抑制しようという呼びかけている。

省エネ意識の高揚はとても大切なことなのだが、それがCO2排出の劇的な削減に貢献し得るかどうかは別問題である。

自動車用鋼板の大規模生産拠点のひとつ、神戸製鋼所加古川製鉄所が従業員のマイカー通勤からバス通勤への転換を進め、CO2排出量を減らすことに成功したと報じられた。

この取り組みにより、従業員の自動車、バイク通勤は従来の8000台から3300台も減った。CO2排出量削減効果は1日当たり8.7tになるという。

クルマ社会が浸透した典型的な地方都市の加古川でこれだけの“脱クルマ”を実現するのは、大都市圏ではちょっと想像し難いくらい大変なことだ。関係者は並々ならぬ努力を払ったことだろう。8.7tといえば、1kmあたり150gのCO2を排出するクルマの走行距離5万8000km分。その削減は敬服に値するものだ。

が、加古川製鉄所が鉄を作るうえで排出するCO2の量を見ると、産業部門のCO2は、そのような努力でどうにかなるようなものではないことがわかる。加古川製鉄所の粗鋼生産能力は1日約1万6000t。新日鐵などと並び、省エネ性では世界のトップランナーと言われているが、それでも粗鋼1tあたり推定1.8t以上のCO2を排出しているとみられる。

早い話が従業員のマイカー自粛は、CO2排出量の0.03%を減らすことにしかつながっていないのである。

製鉄は産業のなかでもとりわけ膨大なエネルギーを消費する部門だけにこうした数値も極端になるが、05年比でCO2を3分の1近くも減らすのがいかに困難であるかはイメージできよう。

CO2を劇的に減らすために、太陽電池や風力発電などの再生可能エネルギーを大量に導入し、クルマを技術的にはまだまだ生煮えのEVに一気に転換するなどしても、CO2削減効果は3割などという途方もない数字には到底及ばない。そればかりか、それらの製造自体に膨大なエネルギー消費を伴う有様だ。

温室効果ガスを90年比で25%削減という数字はすでに国際公約として一人歩きしている感が強いが、単に日本が勝手に25%削減するというのは自殺行為に等しい。

幸い、温室効果ガスの削減スキームはまだ決まっていない。民主党政権が即刻やらなければいけないのは2点。まずはCO2排出の基準年を、新興国が経済発展しはじめた後にあたる05年に変更すること。もう一つは省エネ技術や商品を発展途上国や新興国に有償提供した場合に、自国の削減分にカウントできるCDM(クリーン開発メカニズム)の算定方法を、現在の想定より製造・輸出国側に有利になるよう工作することだ。

今日、自動車産業、製鉄業など、エネルギー消費の多い業界を中心に、経済界は25%反対の大合唱である。が、そればかりでなく、事の正誤を議論しているうちに、いつの間にか国際社会でのエコスキームが日本に不利になったなどということがないよう、政府に外交を働きかけていくべきである。

プロフィール
井元康一郎 いもと・こういちろう
鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。「ビフォーアフター」では、環境・エネルギーを主体として、100年に1度と言われるクルマの劇的変化をリポートする。

《井元康一郎》

井元康一郎

井元康一郎 鹿児島出身。大学卒業後、パイプオルガン奏者、高校教員、娯楽誌記者、経済誌記者などを経て独立。自動車、宇宙航空、電機、化学、映画、音楽、楽器などをフィールドに、取材・執筆活動を行っている。 著書に『プリウスvsインサイト』(小学館)、『レクサス─トヨタは世界的ブランドを打ち出せるのか』(プレジデント社)がある。

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