【中国 次世代トヨタ】eディーラーの中核システム i-CROP

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高額商品であるクルマの販売は、"ひと"と"ひと"の対面販売が基本。セールススタッフのスキルがものを言う世界であり、Amazonなどネット販売や大手家電量販店のような「効率化」・「システム化」が難しい世界であると、多くの人が考えているのではないだろうか。

しかし、その"常識"は中国から覆ろうとしている。広汽トヨタを筆頭に、トヨタが中国から導入しているトヨタ版CRM構想「e-CRB(evolutionary Customer Relationship Building)」。この中核となるのが「i-CROP」(Intelligent Customer Relationship Optimization Program)の存在だ。i-CROPは、トヨタが新市場向けに開発した顧客情報管理システムの総称であり、顧客情報の記録・管理のみならず、営業担当やCR(カスタマーリレーション)部門、サービス部門のスタッフに対して、その時々で最適な「顧客対応」を指示する役割を持っている。

中国ではe-CRBを導入済みのディーラーを「eディーラー」と呼び、広汽トヨタではe-CRB導入を条件にディーラー募集をしているため全店がeディーラーとなっている。

◆壮大な顧客情報管理システム「i-CROP」

i-CROPの特徴は大きくふたつある。

ひとつは自動車メーカーであるトヨタと、自動車販売会社(ディーラー)がi-CROP上で顧客情報を管理すること。i-CROP自体はSaaS(Software as a Service)の形態をとり広汽トヨタ側がサーバ管理しているため、各ディーラーはパソコン上から"i-CROPをオンラインサービスとして利用する"形になる。顧客情報はi-CROPサーバーで集中管理されており、端末には一切データが残らない仕組みになっているため、セキュリティ性および運用性も優れたものになっている。

そして、もうひとつの特徴が、i-CROPが顧客情報を顧客獲得・販売支援から、納車後のカスタマーサポート、アフターサービスや買い換え支援まで広く対象としていることだ。「顧客のカーライフ」すべてを一気通貫で管理し、"視える化"するのである。そして、メーカーとディーラーが適切なタイミングで顧客とコミュニケーションを行う支援をする。これにより新車販売がスムーズに行えるだけでなく、その後の顧客満足度が向上。さらにサービス商品の販売増によってディーラーの収益機会が増加するほか、買い換え需要を可視化し確実に取り込むことでメーカー側の"次の販売機会"も逃さないようにできる。

筆者はこのi-CROPを見たとき、"世界有数の顧客情報管理システム"であるNTTドコモの「アラジン」と同レベルのクオリティを持つものであると直感した。ドコモのアラジンも、キャリア(携帯電話会社)がすべての顧客情報を管理し、販売会社はそのシステムを利用する形をとることで、高い運用性とセキュリティ性を実現。販売店のオペレーションを効率化し、販売支援にも用いられている。また、新規契約獲得後も顧客情報が詳細かつ統合的に管理されているため、顧客満足度向上や新サービスの開発・販売、長期的な顧客の囲い込みなどに、アラジンのデータベースが生かされているのだ。

i-CROPのすごさは、このドコモのアラジンに匹敵する機能・クオリティの顧客情報管理システムを「自動車ビジネスに持ち込んだ」ところにあるだろう。メーカーが一括して顧客情報を把握することで、新車販売状況から販売後のカーライフ情報までをサポートでき、適切な生産・販売戦略をとることができる。また販売会社から見ても、高度な顧客情報システムを利用できることは、新車販売の機会獲得と販売数の平準化、その後のアフターサービス分野における収益拡大など、様々な面において大きなメリットを持つのだ。

◆i-CROPの指示で販売機会を獲得する

では具体的にi-CROPは販売店でどのようにして使われているのか。実際の姿を見てみよう。

i- CROPを導入した店舗では商談ブースにパソコンが設置されている。見込み客が席に着くとすぐに、顧客の基本情報と要望を聞きながら、i-CROPにデータを投入。すると画面上に、顧客の「欲しい仕様のクルマ」がシミュレーション画面として現れる。顧客の欲しいクルマの仕様が決まれば、そのままワンクリックで見積書の印刷も可能だ。

このシミュレーション画面はi-CROPのデータベースと直結しており、この時点で顧客情報が「見込み客」として登録されるほか、見積もりをした仕様のクルマのデータも登録される。

i- CROPではこうして蓄積された見込み客に対して、適切な接客フローを行うように"システム側がセールススタッフに指示を出す"。例えば、「来店から2日後にメールを出す」といった具合に、見込み客を新車購入に踏み切らせるために必要な対応をi-CROPが指示するのだ。

こうした接客業務の指示は各セールススタッフの管理画面上に表示されており、スタッフは毎日"画面上に表示されたタスク"を処理していく。セールススタッフは来店した見込み客の対応をし、i-CROPの指示通りに動くことで、販売のベテランでなくても高い確率で成約が得られるという。そのため各販売会社ではセールススタッフの販売技術よりも「最初期の見込み客対応での印象のよさを重視し、(i-CROPで)決められた作業をきちんと行う人材を採用している」(販売店幹部)。

i-CROPで販売技術が完全にシステム化しているので、スタンドプレーに長けたベテランより、マニュアル通りに動く若手の方が好まれているようだ。また、スタッフの平均年齢が抑制できることは、人件費の圧縮においても貢献するという。

◆新車販売数の「平準化」を支援するSPM

i-CROPの販売面での導入効果は、単純な販売支援にとどまらない。各販売店・販売会社で、コンスタントにクルマが売れる環境作りにも大きく貢献している。

ここで効果を発揮するのが、i-CROPの一機能である「SPM (Sales Process Management)」だ。これは各店舗のセールス部門で商談状況を可視化・一覧するためのものであり、セールスマネージャーのパソコン画面と壁面にある大型モニターで確認できる。

SPMの管理画面では、各セールス担当が対応中の「見込み客」の数と商談状況がリアルタイムでわかるほか、来店してからの期間や、成約の可能性が高いかどうかなどが視覚的に確認できる。

「見込み客の数と成約可能性を可視化することで、セールスマネージャーは"部下が一定数の見込み客を確保しているか"を把握できます。見込み客が成約に結びつくかどうかの比率や、成約までの商談期間はあるていど決まっていますので、セールスマネージャーはSPMのデータを参考にして、各セールススタッフが常に新しい見込み客を一定数確保していくように指示するのです」(販売店幹部)

SPMで重視されているのは、各セールススタッフが「どれだけ売るか・売れるか」ではなく、「いつでもコンスタントに売り続ける状況にあるか」である。SPMはそれを実現するため、"一定数の見込み客"を"交渉期間が均等になるように"確保しているかが一目でわかるように腐心されている。

i-CROPのSPMにより販売数の平準化が実現すれば、流通・在庫量が安定し、品切れによる販売機会の喪失や在庫を処分するための無理な値引き販売をしなくてすむようになる。こうした合理的な考え方は、コンビニエンスストアのシビアな販売管理に通じるものがある。

営業マンの熱意と根性で売る体育会系のセールスから、緻密な計算と計画に基づいた合理的で安定したセールス体制に。広汽トヨタのi-CROPが実現しているのは、まさに21世紀型の新しい自動車販売のスタイルといえるだろう。

《神尾寿》

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