そんな中ようやく先日、前述の食品問屋でコシヒカリを発見した。イタリアのスーパーの米コーナーならどこでも見かける1856年創業ガッロ(Gallo=ニワトリ)社の新製品である。
コシヒカリは以前から大都市のアジア食料品店などでは販売されていたものの、イタリアの一流ブランドによるものは初めてだ。事実メーカーのサイトにも「本当の“スシライス”を供給する(イタリアで)唯一のメーカーです」と、誇らしげに記されている。
包装は一般的な米の半分である500gにもかかわらず、価格は2.75ユーロ(343円)とほぼ倍である。高級品だ。浮世絵風女性イラストや、日本であまり出てこなそうな洒落た寿司の写真が気になる。裏面の「巻き寿司の作り方」の隣に印刷された、柔道着に日の丸ハチマキをしたニワトリも、かなりシュールだ。
だが、外国料理に対して闇雲に拒否反応を示す人が多かった自国料理原理主義の国イタリアである。「寿司用米」がそれも一流ブランドから発売され、さらにこうして全国チェーンの食品問屋で扱われるようになってきたことに、時代の変化を感じざるを得ない。
時代の流れといえば、こうした食品問屋や外資系ディスカウトスーパーに買い物に来る客が乗ってくるクルマも同じだ。
2年ほど前までは、いかにも業者風のフィアット・イヴェコ製ライトバンや、イタリア人の主人の代わりに仕入れに来た外国人労働者が乗る古いアルファロメオ『33』や『75』、初代セアト『イビーザ』といったクルマが目立っていた。
ところが最近はどうだ。メルセデスの『C』、『Eクラス』や、BMWの『X5』といった玉川高島屋風プレミアムカーが駐車場に増えてきた。
いいクルマに乗るイタリア人が少しでも安い店に流れている。外国人労働者も店の営業権を手に入れると同時に、自ら手に入れた高級車で仕入れにやって来たりするのだ。事実、クルマのナンバーをよく見ると、東欧の旧社会主義国系だったりする。
安売り店は、いつでも社会の鏡なのである。
喰いすぎ注意 |
筆者:大矢アキオ(Akio Lorenzo OYA)---コラムニスト。国立音楽大学卒。二玄社『SUPER CG』記者を経て、96年からシエナ在住。イタリアに対するユニークな視点と親しみやすい筆致に、老若男女犬猫問わずファンがいる。NHK『ラジオ深夜便』のレポーターをはじめ、ラジオ・テレビでも活躍中。主な著書に『カンティーナを巡る冒険旅行』、『幸せのイタリア料理!』(以上光人社)、『Hotするイタリア』(二玄社)、訳書に『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)がある。