裁判所の判断は自賠責の支払い基準に拘束されない

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慰謝料や逸失利益など、自動車損害賠償保障法で定められた基準額を超えた賠償金の支払いを求めた遺族に対し、保険会社が支払い拒否を求めて上告した民事訴訟の上告審判決が3月30日、最高裁第1小法廷で行われた。

裁判所は「基準額が超えた場合でも、裁判所が支払いを認定した場合は支払う義務が生じる」との初判断を行っている。

これは2003年10月に岩手県盛岡市内で交通事故に遭って死亡した女性(死亡時79歳)の遺族が訴えていたもの。保険会社は自賠責法で定められた算出方法と基準に基づき、賠償額(慰謝料と逸失利益)を約1800万円と算定し、これを支払った。

だが、女性の遺族は「今回のケースでは自賠責の死亡保険金最高額である3000万円が支払われるケースだ」として保険会社に支払いを求めて提訴した。

一審と二審では裁判所が自賠責とは別の基準で算定した結果、約2100万円の賠償額が算出され、保険会社に対して差額分の支払いが命じられた。しかし、保険会社は「自賠責保険の支払い基準を超えた分については支払う義務が無い」と主張し、上告していた。

3月30日に行われた上告審判決で、最高裁第1小法廷(横尾和子裁判長)は、自賠責の支払い基準について「紛争が無い、迅速な解決を目指した場合に訴訟外で保険会社が従うべき基準に過ぎない」と認定。「裁判所が損害賠償額を算定し、これが基準額を超えた場合には、自賠責の基準に拘束されることなく、保険会社は裁判所の認定額を支払うべきだ」との判断を示した。

上告理由で保険会社は「裁判所が自賠責の支払い基準に拘束されることなく賠償を命じた場合、保険会社に法令違反を強制することになる」と主張していたが、これについても「自賠責基準は公平かつスムーズな賠償金の支払いを確保するためのものであり、訴訟で個々の事情に基づいて算出し、その結果として命じた賠償額と違いが生じても不合理ではない」として、保険会社に裁判所が認定した分の差額支払いを命じている。

最高裁がこうした判断を行うのは今回が初めて。同様のトラブルは全国で相次いでおり、「保険会社が支払い基準を理由として払い渋りを行っている」との指摘も法曹関係者から上がっていた。今回の判断はそうした状況に一石を投じるものになりそうだ。

《石田真一》

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