ITS世界会議名古屋の開会式において、各国のITS代表者が壇上にあがり、挨拶とスピーチを行った。ITSは交通社会そのものをIT技術によって効率化し、安全性能や環境性能、利便性の向上を狙うという点で、すべての関係者の考えは一致している。
しかし、それらを実現する上でのスタンスの違いや温度差が、各国代表のスピーチに現れていた。
特に印象深かったのは、政府代表挨拶で登壇したアメリカ運輸省道路交通安全局局長(NHTSA)のジェフリー・ウィリアム・ラング博士と、アジア・ITS政府代表で登壇したリン・ジ北京市副市長のスピーチだ。
ラング局長はITSにおいて「最も大切なのは安全である」と断言。アメリカでは35歳以下の死亡原因のトップが交通事故であると話し、欧州各国、そして日本政府がITSの目標として交通事故死亡者の半減と、その先にゼロを目指す姿勢を打ち出したことを高く評価した。
「アメリカでは年間260万件の交通事故が発生し、2万7000人が死亡している。最近ではWHO(世界保険機構)が世界安全デーの主要テーマのひとつとして『交通の安全』を掲げた。ITSにはモビリティや生産性の向上といった要素もあるが、それよりも安全性能の向上が優先されなければならない」(ラング局長)。
リン・ジ北京市副市長は、ITSによる環境負荷と資源消費の軽減、持続性のある自動車交通社会の必要性に重きをおいたスピーチであった。
リン副市長はアジア各国において、多くの国でこれからモータリゼーションが始まる段階であることに触れ、「持続性のある(発展をする)交通社会を現在の発展途上国にまで拡げるには、ITSによる効率的な道路交通システムの導入が唯一の道筋である」と強調。
そのうえで、今後のITSに必要な要件として、「人を中心としたシステムを作ること。ITSの技術革新とインフラ整備を同時進行で行うこと。交通社会の持続性のある発展を目指すITSヴィジョンを描くこと。この3つが重要である」とした。
さらに「これから進むインフラの整備はITS前提で織り込んでゆく。古いインフラがITS発展の妨げになってはならない」とも語った。
これまで先進国中心であったモータリゼーションの恩恵を、現在の姿のまま発展途上国にまで拡げたら、環境問題や資源枯渇が深刻化してしまう。その点でリン副市長の指摘は、中国をはじめ急成長するアジア諸地域を代弁する意見と言えるだろう。
一方、昨年、ITS世界会議マドリッドで「eセーフティ」を掲げた欧州は、駐日欧州委員会代表部のバーナード・ゼプター大使と、欧州ITS組織ERITICOのジョン・ヒューズ副会長が登壇した。
「欧州では2020年に交通量が現在の2倍になると試算されている。安全を確保し、持続性のある道路交通システムを維持する上で、欧州政府にとってITSは重要性を増している」(ゼプター大使)。
またゼプター大使は、昨年提唱されたeセーフティは欧州政府の中で着実に進展していると話し、アメリカのGPS衛星に対抗する欧州独自の位置測位衛星システム「ガリレオ」の導入により、新たな応用ビジネスが生まれるだろう、と話した。