6秒間で47mは「わき見」ではない---刑事裁判の加害者主張、民事で覆す

自動車 社会 社会

交通事故を起因とする損害賠償請求訴訟(民事)で、刑事裁判で加害者が供述していた事故原因に「矛盾がある」と認定し、それを理由に福岡地裁がこの加害者に対し、増額した慰謝料を遺族側へ支払うよう命じていた判決を言い渡していたことが明らかになった。遺族側が警察の事故捜査に疑念を感じ、数度の実証実験を重ねた結果、加害者供述の嘘を見抜いたという。

問題の事故は1999年7月31日に長野県南木曽町の国道19号線で起きた。仲間とバイクでツーリング中だった31歳の男性が、64歳の男が運転する乗用車と衝突して死亡したというもの。乗用車はセンターラインを大きく超え、対向車線を走っていたバイク2台と衝突しているが、居眠り運転の可能性を示唆する警察の取り調べに対し、この男は「道路右側の白い建物に気を取られ、気がついたらセンターラインを超えていた」と主張。名古屋地裁岡崎支部で行われた刑事裁判でも男はこの主張を貫き通し、結果として裁判所もこの供述を認定。2000年10月に禁固2年(執行猶予5年)の判決が言い渡され、確定している。

しかし、この供述と警察の取り調べに強い疑念を抱いた遺族と、当時このツーリングにも参加していた仲間は現場を何度も訪れ、現場付近の走行映像を両方向から撮影するとともに、道路管理者である国土交通省から現場付近の道路設計図を取り寄せて分析を重ねた。

その結果、加害者側が刑事裁判で主張した「道路右側の白い建物に気を取られ、センターラインをオーバーする」には、少なくとも6秒間、距離にして47メートル走行せねばならず、わき見と主張するには不自然に長すぎる時間であること。また、警察の取り調べで加害者が「前夜は1時間しか寝ていない」と供述していたこともわかり、遺族はこの加害者が事故当時「居眠り状態だった」と主張。総額2億1900万円の損害賠償をを求め、福岡地裁に提訴していた。

20日の判決で福岡地裁の斎木稔久裁判官は、遺族側の主張する居眠り運転の可能性で明言を避けたものの、「被告(加害者)の供述どおり、右側をわき見していたとすれば、前方を走っていたバイクが視野に入るはずだが、これには気づいていなかった」と、刑事裁判での供述に矛盾が生じていることは認定した。その上で「被告は事故当時、相当注意力の低下した状態だった」と断定、これを賠償金の加算要素である「より大きな過失」として考慮して増額。結果として1億3500万円の部分についての支払いを命じた。

《石田真一》

【注目の記事】[PR]

編集部おすすめのニュース