e燃費のインタビュー企画第2弾として、最先端の燃費向上技術に迫るため、この分野の第一人者である、東海大学教授工学博士 林義正氏に、メカニズムの面から、最先端の技術について語っていただいた。
●燃費を良くする3大原則
-----燃費が良いエンジンは、どうしたら作れるんでしょうか。
「燃費を良くするための3つの原則というのがあるんです。まず、できる限り薄い燃料を使って、できるだけ急速に燃やし、なおかつフリクションを減らす、というものです」
-----なるほど、できるだけ薄い燃料で、というのはよく聞きます。
「三菱の『GDI』、トヨタの『D4』、日産の『NEO Di』などは、呼び方は違っても基本的には同じ技術です。点火プラグ付近にだけリッチな(濃い)ガスを噴射して火を付け、周りの薄い(リーン)部分も一緒に燃焼させる、という技術です」
-----成層燃焼と呼ばれるものですよね。
「そうです。成層燃焼は一回あたりの爆発で消費される燃料が、重量平均で薄いというメリットがあるんですが、その構造上、濃いガスから火がついて周りの薄いガスに伝播していくときに、NOxがいちばん発生しやすい空燃比15.5あたりのガスが存在すると言うことが欠点です」
-----濃いガスと薄いガスの境目がNOx発生の原因ということですね。なるほど、成層燃焼によるリーンバーンは、なかなか難しい問題がありますね。
「究極のリーンバーンは均一に薄いガスを燃焼するエンジンです。いま、それを実現するための新しい方法を考えていまして、実験では非常にうまくいってるんですよ」
-----でもガスが薄いと、アクセルを深く踏むような状況でパワーが出ないんじゃないですか?
「過給機を使うんですよ」
-----ほぉ、ではどうやって火を付けるんですか? ディーゼルみたいに圧縮比を上げるとか?
「それはちょっとここでは言えないんですが(笑)、圧縮比は普通ですね。熱力学の世界では、圧縮比は上げれば上げるほどいいんですが、実際は冷却損失が増えますから、15くらいが限度なんです。あと、ノッキングも起こってきますしね」
実は、林教授が考えている新しい希薄燃焼の簡単な設計図は拝見することができた。なるほど想像もつかない方法であったが現実可能性は高いという。いずれにせよ今後は、いかに効率を高めるかが希薄燃焼の課題であろう。次回は、希薄燃焼以外の燃費向上技術についてうかがう。
林義正(はやしよしまさ)工学博士
東京都生まれ。 東海大学工学部教授。
日産自動車(株)で主にレーシングエンジンの開発に携わり、1994年より現職。
日本機械学会賞、自動車技術会賞、科学技術庁長官賞などを受賞。
著書:『エンジンチューニングを科学する』(グランプリ出版)ほか。