Catena-Xとは?どんなメリットがあるのか?自動車業界のサーキュラーエコノミー…ローランド・ベルガー 山本和一氏[インタビュー]

Catena-Xとは?どんなメリットがあるのか?自動車業界のサーキュラーエコノミー…ローランド・ベルガー 山本和一氏[インタビュー]
  • Catena-Xとは?どんなメリットがあるのか?自動車業界のサーキュラーエコノミー…ローランド・ベルガー 山本和一氏[インタビュー]

ドイツ企業を中心に活動が始まった「Catena-X」に注目する企業は少なくない。そもそもCatena-Xとはなにか。なぜ注目されるのか。この疑問に答え、業界が取るべき道のヒントになるセミナーが開催される。

オンラインセミナー「欧州Catena-X実現で変わるサプライチェーンとユースケース~共通データの自社ビジネスへの活かし方~」は、背景にあるサーキュラーエコノミーと自動車業界の関係を紐解きながら、欧州で始まったCatena-Xの現状と課題、日本のOEMやサプライヤーが取りうる戦略について考える。講師はローランド・ベルガー プリンシパルの山本和一氏。

Catena-Xの背景にあるもの

国連が掲げるSDGs実現に向けた有効な手段の一つである「サーキュラーエコノミー」やEU委員会によるEV化シフト。Catena-Xは、こうした中で始まった取り組みだ。中心メンバーはドイツの自動車OEM、サプライヤー、素材メーカー、各種研究機関で構成されている。オープンコンソーシアムなので日本企業もメンバーに名を連ねている。

サーキュラーエコノミーは「循環型経済」とも訳され、これまで環境問題の課題解決策だったリサイクルやリユースを、経済発展や産業拡大に積極的に生かそうというもの。

根底には資源保護、環境保護、気候変動対策、生物多様性維持へのソリューションという考え方がある。だが、資源枯渇や環境破壊が経済活動の現実的な脅威となりつつある現在において、資源を消費して使わなくなったものを廃棄するだけの経済は成立しない。今後の生産・消費活動、国や企業の成長戦略の中には、資源や廃棄物の再利用、再活用を組み込む必要があるという考え方だ。

ビジネスマターとしてのサーキュラーエコノミー

Catena-Xは、サーキュラーエコノミーの取り組みのひとつとして考えることができる。

「ドイツ産業界、とくに自動車OEMやサプライヤーが中心となって、業界サプライチェーンの全体最適を目指すコンソーシアムです。OEMやサプライヤーは、独自に資源の再利用や廃棄物削減に取り組んでいますが、Catena-Xでは、リサイクルに向けたトレーサビリティ実現や工場ライン稼働の向上・平準化などを、サプライチェーン全体で実現することを目的に、必要な情報を収集し共有するための共通の基盤づくり、及びルールづくりを目指します。」(山本氏)

近年の欧州新車発表では、エネルギー効率のクラス表示、内外装にリサイクル素材を使ったもの、環境負荷の少ない塗装、土壌分解が可能な素材などがアピールされている。工場稼働においてもカーボンニュートラルや水資源を節約する、汚さない点が指標のひとつになっている。CASE車両においては、バッテリーのセルやパックの再利用のみならず、レアアースの「都市鉱山」活用も急務だ。

OEMとサプライヤーの関係が入り組んでいる欧州では、サプライチェーン全体で、素材や部品のトレーサビリティ情報、環境負荷情報、生産量や需要、工場の余剰生産力といった情報を協調領域として、共通化、共有するルールづくりの意義がある。

国際会計基準では、CO2削減量や環境負荷に関する情報開示が義務付けられる。サーキュラーエコノミーは環境団体が叫ぶ理想論ではなく、ビジネスマターとしてとらえる必要がある。

ルール作りの段階での注視・関与の重要性

脱炭素やカーボンニュートラルの議論と同様に、欧州の経済政策や動向に否定的な意見も存在する。日本は、欧州主体のこれらの動きは無視していいのだろうか。

「そうとも限りません。取り組み自体はサプライチェーンの全体最適にあります。国内でも業界再編や業態の変革が叫ばれている状態で、ケイレツやサプライチェーンの枠を超えた情報共有基盤は無駄を省き生産性向上や利益に貢献する可能性があります。また欧州市場などグローバルでの動きを無視できるOEMやサプライヤーも多くはないはずです。Catena-Xは活動が始まったばかりで、具体的な標準やルールはこれからです。日本も参加して積極的に関与するか、日本版Catena-Xを作るか、現状で正解は判断できませんが、世界の動きとして見ておく必要はあります。」

確かに、自動車業界においても業界再編が進行中だ。サプライヤーは、OEMのグローバル戦略によって電動化やモビリティビジネスにも対応する必要がある。日本ではケイレツごとのデータ基盤や取引ルールなど確立されており、あまり必要性を感じないかもしれない。だが、100年に一度の変革期に、いまうまくいっているから既存システムのままでよしとするのは危険だ。

ルールづくりの段階だからこそ、放置・静観は危険である。

重要なのはCatena-Xの成否ではない

山本氏によれば、セミナーではドイツや欧州OEMでの具体的な取り組み事例などを交えながら、解説するという。前述したようにCatena-Xは始まったばかりで具体的な標準化やルールはこれからとなる。だが、事業に具体的なメリットや効果がないというわけではない。

Catena-Xでは、生産性拡大や効率化への具体的な適用例として複数のユースケース をまとめている。セミナーで詳しく解説されるが、たとえば、リサイクルやリユースで必須となる部品の履歴情報は、劣化や性能評価に役立ち、正確な(無駄のない)中古車査定やリサイクル費用の策定につながる。工場の生産能力や稼働状況をうまく共有できれば、稼働率の最大化、設備投資の最適化が見込める。生産データの共有とモジュール生産を組み合わせれば、工程・プロセスの統合、リードタイムの短縮、レジリエンスな生産体制の確立ができるかもしれない。

「業界内でも、部品や製品の履歴情報の共有は簡単ではありませんが、ユースケースを事業として実現できれば企業にとって新たなビジネスになり得ます。まずは、Catena-Xの現状のステータスとユースケースを紹介するので、各社の今後の事業戦略や経営戦略に生かす材料としてほしい。セミナーではそのためのヒントや気づきを提供したいと思っています。」

最後に山本氏は、サーキュラーエコノミーについて次のようにまとめた。

「EUでも製品・部品のデータを共有・提供することへのハードルは高いといえます。Catena-Xの取り組みがうまくいくかどうかは未知数です。しかし、問題は個別の取り組みの成否ではなく、リサイクルやトレーサビリティに対するニーズにどう応えるかです。資源保護、環境保護、希少資源の再利用を、社会的要請や義務感のみならず成長戦略に組み込む考え方は世界的な潮流です。Catena-Xの成否は重要ではありません。仮にこの取組みが進まなかったとしても、サーキュラーエコノミー実現に向けた動きは変わらないでしょう。」

山本氏が解説するオンラインセミナー「欧州Catena-X実現で変わるサプライチェーンとユースケース~共通データの自社ビジネスへの活かし方~」は12月14日開催。詳細・お申込はこちらから。
《中尾真二》

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