芝浦工業大学は7月10日、運転者の運転意図をリアルタイムに推定し、必要な場合だけ車体の安定化制御を行う「運転者意図認識型・状況適応安定化制御システム」を開発したと発表した。
◆AIで「曲がりたい」を識別する
同大学システム理工学部の桑原央明准教授と、大学院理工学研究科修士課程の塚瀬翔太氏による研究成果で、ハンドルと前輪を電気的に接続するSteer-by-Wire(SBW)技術と人工知能(機械学習)を組み合わせた点が特徴だ。
システムは、運転者が「曲がりたい」と考えて操作している状態と、転倒につながる不安定な状態を識別し、危険時だけ姿勢制御を作動させる。従来のように旋回時まで制御が介入して操作感を損なう課題を抑えながら、安全性の向上をめざす。
研究成果は、メカトロニクス分野の国際学術誌「IEEE/ASME Transactions on Mechatronics」に掲載された。
●ポイント
- 機械学習により運転者の「直進」「旋回」「不安定状態」をリアルタイムに識別
- 転倒の危険がある場合のみ安定化制御を作動し、自然な操縦感覚を維持
- Steer-by-Wireにより、運転者がハンドルに加える力と路面からの反作用力を分離して取得運転者の作用力情報を用いることで、「曲がりたい」という意図をより正確に推定
- 運転者の意図を理解した上で支援を行う人間中心型の運転支援技術を実現
- 高齢者向けモビリティや電動アシスト自転車、配送モビリティへの応用が期待される
カーブするバイク(イメージ)◆ハンドルと前輪を機械的に切り離す
二輪車は車体を傾けながら旋回する特性があるため、自動車向けADASのような高度運転支援技術の実用化が難しいとされてきた。従来の安定化制御では、車体が傾くと自動的に姿勢を戻そうとするため、運転者が意図的に旋回しようとした場合でも制御が介入し、自然な操縦感覚を損なう課題があった。
また、一般的な機械式ハンドルでは、運転者がハンドルに加えた力と、タイヤを通じて路面から伝わる反作用力が混在するため、運転者の意図を力の情報から正確に読み取ることが難しかった。
今回の研究では、SBWを搭載した実験用電動バイクを開発。ハンドルと前輪を機械的に切り離し、電気信号で操舵することで、運転者が加えた力と路面からの反作用力を分離して取得できるようにした。
◆「不安定状態」と判断すると制御が作動
さらに、車速、操舵角、車体の傾き、路面反力などのデータを深層学習モデル(LSTM)に入力し、走行状況を「直進」「旋回」「不安定状態」の3つにリアルタイムで分類する。
システムが「不安定状態」と判断した場合のみ車体姿勢を回復する安定化制御を作動させ、「旋回」と判断した場合は制御を介入させず、運転者本来の操作を優先する仕組みだ。
実験では、カーブ走行と転倒につながる不安定状態を高精度で識別し、適切なタイミングでのみ姿勢制御を実施できることを確認した。
芝浦工業大学は、この技術を従来の「車体を安定化させる」制御から発展した、人間中心型の運転支援技術と位置付ける。今後は多様な走行環境への対応や路面状況推定技術の高度化を進めるとともに、高齢者向け転倒防止自転車や電動アシスト自転車、配送用二輪モビリティ、自律移動ロボットなどへの応用をめざす。



