ホンダ栃木四輪開発センターのドライビングシミュレーターで酔わなかった話

四輪ダイナミクス性能評価用 ドライビングシミュレーター
  • 四輪ダイナミクス性能評価用 ドライビングシミュレーター
  • 台座に設置された電動アクチュエーター
  • エアベアリング浮上システム
  • オペレーティング室
  • ボーディングブリッジ

栃木県芳賀町にある本田技研工業(ホンダ)栃木四輪開発センターでドライビングシミュレーターを体験することができた。

【画像全5枚】

体験時にホンダのスタッフが心配したのが「シミュレーター酔い」だったが……。シミュレーターは、ざっくり説明すると運転席と前方の映像とを組み合わせたもの。

●シミュレーター酔いの恐れ

ドライビングシミュレーターは、車両開発の段階で実車を使わずに「運転」「車両挙動」「安全技術の反応」などを仮想環境で体験・評価できる装置だ。運転操作に応じて前方の画面が変化し、運転席にも揺れや振動が加わる。ホンダのシミュレーターは、アクチュエーター9軸とエアベアリング浮上システムを装備、車線変更に相当する移動も可能だ。これらで人が何をどう感じるかを調べる。

乗り物酔いの主な原因は、視覚情報と平衡感覚(前庭感覚)の不一致とされる。人間の脳は「目で見た動き」と「耳の奥(前庭器官)で感じる動き」を組み合わせて「自分がどう動いているか」を判断している。これら感覚の食い違いを脳が「異常」と判断し、吐き気・めまい・冷や汗などを引き起こすという。

結果から言ってシミュレーター酔いはなかった。眼前の動画と車体の揺れとの間に感覚の食い違いはなかった。路面の画像を見て、こんなふうに揺れるかな、と想像できる通りで、実際の走行の再現度が高い。

ただ、今回は自動運転という設定で車内に座っているだけだったので、自身で車両を操作すると、シミュレーターによる出力との間にズレを感じるのかもしれない。また長時間“乗車”すれば違和感を感じたり、あるいは本当に乗り物酔いになったりするのかもしれない。短時間の体験では再現度に感嘆するだけだった。

エアベアリング浮上システムエアベアリング浮上システム

●レーンチェンジもできる稼働領域

栃木四輪開発センターに設置されているドライビングシミュレーターは、鷺宮製作所(サギノミヤ)の「DiM300」だ。DiM(Driver-in-Motion)は独VI-grade GmbHの商標で、車両モデルベース開発(MBD)段階でドライバーが車両挙動をリアルタイムに体感できるシミュレーターとして、開発の効率化を支援する。

DiM300は、従来の標準仕様「DiM150」の稼働領域を約2倍に拡大したモデルで、最大変位(X・Y)は±1.50m(幅3mのレーンチェンジを再現可能)、最大加速度(X・Y)は±25m/s2、Z軸では±35m/s2に達する。最大搭載質量は500kg。

DiM300は「ヘキサポッド(主に車体の傾き)+トライポッド(主に平面での移動)」構造が特徴。アクチュエーターは9軸(ヘキサポッド6軸+トライポッド3軸)を装備、伸縮は油圧ではなく、電気モーターで歯車を動かす。トライポッドのエアベアリング浮上システムと合わせて、滑らかで応答性の高いモーションを実現した。長時間の加速度再現が可能となり、より実走行に近い評価が期待できる。画像プロジェクターは5基。高解像度で高速描写の動画で被験者の視界をフルカバーする。

ボーディングブリッジボーディングブリッジ

●Thunderbirs are go!!

ドライビングシミュレーターの車体はアクチュエーターに支えられて、床面より高い位置にある。車体の高さに合わせてオペレーター室も高い位置にある。被験者はオペレーター室からボーディングブリッジを経て車体にアクセスする。ボーディングブリッジは、旅客機に搭乗するものと同様に伸縮する。上下車の際は伸び、ドライビングシミュレーターが作動中は縮むわけだ。

空港のボーディングブリッジは左右に壁があり、天井もあるが、ドライビングシミュレーターのボーディングブリッジは手すりがあるだけ。オールド特撮ファンはサンダーバード1号への搭乗シーンを思い出すかもしれない。トレーシーアイランドでは、パイロットのスコットを載せたまま中空に展開するが、栃木では伸縮時に人を乗せない。

車体に上下車するためなら、脚立やキャスター付きの階段のようなものでも良さそうだが、ホンダのスタッフによると、ドアの開閉もシミュレートするために、地面の高さにあるていどの広さを持ったプラットフォームが必要だという。

オペレーティング室オペレーティング室

●試験装置総合メーカーとしてのサギノミヤ

DiMは、車両運動性能や乗り心地、ADAS(先進運転支援システム)評価をはじめ、EV開発やコックピット設計など多様な領域に対応する。

ドライバーの操作情報をリアルタイムで解析し、仮想空間上の車両モデル挙動に変換する「モーションキューイングアルゴリズム」により、自然な体感を再現する。これにより試作車の削減、開発期間の短縮、安全性の向上を同時に実現。実車を用いずに「だれでも、いつでも、何度でも、安全に」検証可能な環境を提供する。

鷺宮製作所は、自動制御機器事業と試験装置事業の2本柱で展開し、自動車をはじめ土木・建築、鉄道、航空宇宙など幅広い分野に製品を供給している。1964年の試験装置事業開始以来、世界でも数少ない試験機総合メーカーとして国内外の信頼を得ており、DiMシリーズはその技術力を象徴する製品となっている。

《高木啓》

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