【怪談】最後のひとり

最後のひとり
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恒例、夏の怪談シリーズ。車で帰省する方、夜遅くなったらご注意ください。

深夜、郊外を走る県道。数年前の夏、会社員のBさんは、仕事終わりに実家へ向かう途中だった。時刻は真夜中を回っていたので、交通量は少なく、車は順調に走っていた。

県道が小さな丘のそばのゆるいカーブに差しかかったとき、Bさんは不意にブレーキを踏みたくなった。カーブだからではない。“踏みたくなった”という表現も変だが、道の脇に何かが立っている気配を感じたのだ。

車のライトに照らし出されたのは、白いワンピースを着た若い女性のようだった。車道に飛び出してくるようなそぶりはないし、助けを求めているようでもない。

「こんな時間に、こんな場所で……?」

不思議に思いながらも、結局、Bさんは車を止めずに通り過ぎた。

それから数分後。ふとバックミラーをのぞいたBさんは、血の気が引いた。さっきのあの女性が、ミラーの中からこちらをじっと見ていたのだ。驚いて振り返るも、後席には誰もいない。とっさに車を路肩に寄せて止め、もういちど後席を見たが、やはり誰もいない。気のせいかと思ったが……。

次の日の朝、洗車をしようと車に近づいたBさんは、また背筋を凍らせた。リアガラスに、小さな手形が無数に浮かんでいたのだ。それも外側ではなく、内側に。あわてて拭き取ろうとしたが、いくら拭いてもなかなか消えない。まるで何かを、必死に訴えるような手形だった。

Bさんは地元のお寺でその話をした。住職はしばらく黙った後、話し始めた。

「かつてそのカーブでは、バスとトラックの正面衝突による大事故があり、十数人が命を落としました。今でもその場所には、花束やお線香が絶えないですね」

そしてぽつりと呟いた。

「事故で亡くなった方の中に、一人だけ、身元不明のまま弔われた方がいましてね。いまだに、“誰にも見つけてもらえなかった”と、さまよっていると聞いたことがあるんです」

Bさんが女性を見たのは、それが最初で最後だった。ただ、車を走らせていると、ときどき感じるのだという。誰かが、後席に座っている気配を。

<注> 文中で、事故の場所や発生日時、詳細は伏せておいた。県道やバスとトラックの正面衝突というのも、話をわかりやすくするための書き方だ。悲惨な事故があった、ということは事実だ。

《レスポンス編集部》

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