「車を冷やす」塗装、日産がメタマテリアルの実証実験を公開

自動車用自己放射冷却塗装の開発
  • 自動車用自己放射冷却塗装の開発
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  • 三浦主任研究員
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  • 自己放射冷却塗装(手前、テスターの左)と通常塗装
  • 三浦主任研究員

日産自動車は8月6日、自動車用自己放射冷却塗装の実証実験を東京の羽田空港で公開した。夏場の直射日光による車室内温度の過度な上昇を防ぐことで、エアコン使用時のエネルギー消費を減らし、燃費や電費の向上に貢献する塗料だ。

本塗装を開発した総合研究所で先端材料・プロセス研究を担当する三浦進主任研究員によると、電磁波、振動、音などの性質に対し「自然界では存在しない物理特性を材料自体ではなく、人工的に実現した構造」=メタマテリアル、直訳すると「超越した材料」をこの塗装は採用している。

◆自動車の表面で放射冷却

今回開発した塗装は、物体の温度上昇を引き起こす太陽光(電磁波の近赤外線)を反射するだけでなく、熱エネルギーを放射するメタマテリアル技術を活用した。塗料は、放射冷却製品の開発を専門とするラディクールと共同開発した。

開発中の塗装は「熱のメタマテリアル」として、太陽光を反射するだけでなく、クルマの屋根やフード、ドアなどの塗装面から熱エネルギー(電磁波の遠赤外線)を大気圏外に向かって放出することが可能となり、車内の温度上昇を抑制する。電磁波は波長8~13マイクロメートルで、自然界に普通に存在する波長。三浦主任研究員は「人体を含め周囲にはなんら影響を与えるものではなく、大気を温めることもなく、宇宙に放出される」と言う。気象の放射冷却と同じ現象を人工的に起こすわけだ。

開発段階において、この塗料を塗装した車両と通常塗料を塗装した車両を比較した際には、外部表面で最大12度、運転席頭部空間では最大5度の温度低下を確認した。これにより、炎天下に長時間駐車していた車両への乗り込み時の不快感を軽減し、エアコンの設定温度や風量の最適化により、燃費や電費の向上を図ることができる。また冬にも温度が下がりそうで気になるが、三浦主任研究員によると、この塗料は温度が高いほどより多くの電磁波を放出する性質を持っており、気温の低い冬季には温度低下は体感できない程度にとどまるという。

◆実用化までの課題

この塗装の効果と耐久性を検証するために日産は、羽田空港において2023年11月から1年間の実証実験を実施している。ラディクールの日本法人の販売代理店を務める日本空港ビルデングの協力により、ANAエアポートサービスが空港で日常的に使用している『NV100クリッパーバン』に当該塗料を塗装して評価を行なっている。

自動車用自己放射冷却塗装の開発は、三浦主任研究員が2017年に自己放射冷却材料について『サイエンス』誌に発表された記事を読んだことから。2019年にフィルム携帯で冷却効果を確認、2021年に塗料の開発を開始した。

メタマテリアルの技術を利用した放射冷却塗料は建築用途には使用されているが、建築用塗装は自動車用塗装と比較すると塗膜が非常に厚く、ローラーで塗布することを前提としており、自動車の塗装に必要であるクリアトップコートの使用も想定されていない。そのため日産では、この塗料を車に適用できるよう、エアスプレーでの塗布や、クリアトップコートとの親和性、日産の厳格な品質基準など、様々な条件への対応に取り組んだ。


《小崎未来@DAYS》

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