量子コンピュータが自動車業界にもたらす未来…デロイトトーマツコンサルティング 量子技術統括 寺部雅能氏[インタビュー]

量子コンピュータが自動車業界にもたらす未来…デロイトトーマツコンサルティング 量子技術統括 寺部雅能氏[インタビュー]
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来たる4月24日、オンラインセミナー「量子コンピュータ×自動車分野での活用メソッド」が開催される。セミナーに登壇するのは、デロイト トーマツ コンサルティング 量子技術統括の寺部雅能(てらべまさよし) 氏。

寺部氏は、デンソーに在籍していた2015年当時、量子コンピュータの応用研究プロジェクトを立ち上げ、工場やモビリティサービス分野での世界初実証などの実績を残したのち、2020年より住友商事でビジネス視点の量子プロジェクトを立ち上げ、国連総会のサミットなど様々な国際会議に登壇。2023年よりデロイト トーマツ コンサルティングにて、量子技術統括として量子技術のユースケース創出、ソフトウェア技術研究、エコシステム形成に取り組む人物だ。

今回のセミナーは以下のテーマで進められる。

1.量子コンピュータとは何か
2.グローバルの投資トレンド
3.自動車・製造分野における量子コンピュータの応用例
4.対談・質疑応答

講演の後には、本セミナーのモデレーターであるスズキマンジ事務所 代表の鈴木万治氏を交えて、参加者からの質疑応答やディスカッションの時間が用意されている。

セミナーに先立ち、見どころを寺部氏に聞いた。

■量子が注目される3つの理由

従来のコンピュータとはまったく違う概念で動作すると言われる量子コンピュータ。寺部氏は、量子が注目される3つの特性を挙げながら量子コンピュータを説明した。

「物質を超ミクロな視点で見ると、原子や電子などの単位になりますが、これらを総称して量子と呼びます。量子の世界は、私たちが見ている世界とは異なる物理法則で動いており、この特性をうまく利用することで、例えば量子センシングという超高感度のセンシングが可能になり、また量子には観測されると破壊されるという特性があり、これを利用すると、絶対に解読されない量子暗号を作ることができます。」

「さらに量子の特性を利用すると、超高速・超高精度・超低電力などの特徴を持つコンピュータを作ることができます。これが量子コンピュータと呼ばれるものです。」

では、量子コンピュータは具体的にどのような原理で動作するものなのか。寺部氏はこれを“0と1を同時に持つことができる”コンピュータだと説明した。

「従来のコンピュータは、0または1の状態を持つビットで構成されていました。しかし量子の世界では、量子ビットと呼ばれるものが0と1の両方の状態を同時に持つことができます。」

「量子ビットが複数の状態を同時に持つことの利点は、すべての組み合わせを同時に探索できることです。例えば30ビットのデータがある場合、従来の方法では、10億通りもの組み合わせを一つずつ計算する必要がありましたが、量子コンピュータでは30量子ビットがあれば同時に探索できます。これにより、探索が大幅に高速化されることが期待されます。」

「量子コンピュータのもう一つの驚くべき点は、従来の半導体コンピュータが2年で2倍の性能になるのに対し、量子コンピュータは1量子ビット増えるだけで探索空間が2倍になることです。」

「したがって、100量子ビット増えると探索空間が2の100乗倍増えることになります。つまり1000兆倍の1000兆倍の探索空間になるということです。ゆえに量子コンピュータは非常に大きな期待が寄せられています。」

■量子コンピュータが解決する課題とは

量子コンピュータの高い性能によって、さまざまな社会課題の解決に近づく可能性があるという。そのひとつが渋滞問題だ。

「量子コンピュータが得意とするひとつの例として、組み合わせ最適化問題があります。車が2台あるときに、それぞれの車が目的地まで複数の経路を選択する場合を考えてみましょう。1台の場合は3通りの経路がありますが、2台だと9通りの組み合わせが考えられます。」

「例えば、赤い車が下のルートを通り、青い車が左のルートを通る場合、重なる部分があり、これが渋滞になりやすいルートと考えられます。これにしたがって、車の台数を増やして経路を選択する組み合わせによって渋滞度合いを点数化することができます。その中で、最も良い組み合わせを見つけることが渋滞解消の問題となります。」

「これには膨大な組み合わせがあります。たとえば10台だと6万通り近く、20台だと35億通り、30台だと200兆通りもありますが、実際の街の交通は数百台、数千台という規模です。ゆえに交通シミュレーションはリアルタイムで解くには困難な問題です。」

「これが量子コンピュータによって1分で解けるようになったとすると、これまでシミュレーションしかできなかったことを、リアルタイムで計算できるようになります。これによって、実際の街の交通状況をリアルタイムに改善することが可能になります。渋滞だけでなく、他の様々な社会問題の解決にも新たな可能性が生まれるでしょう。」

■量子コンピュータによるリスクとは

いっぽうで、量子コンピュータがもたらすリスクもあるという。暗号解読だ。現在の多くの暗号は、量子コンピュータの登場によって致命的なリスクとなりうると寺部氏は示唆した。

「現在の主流の暗号であるRSA2048は、現在のコンピュータ性能では解読が難しいために安全とされていますが、量子コンピュータによって解読にかかる時間が劇的に短縮されます。従って、量子コンピュータ時代には現行の暗号が安全ではなくなる可能性があり、その対策が喫緊の課題となっています。」

「今からでも十分な対策が必要です。数年後に暗号解読が可能になったときに、過去の通信が解読される可能性があります。特に国防や政府の通信などは極めて重要であり、これらの分野での対策が急がれています。」

「最近では、AppleとGoogleが量子コンピュータに対応した暗号を導入するというニュースがありました。これが示すように、量子コンピュータの影響はますます身近に迫ってきています。」

■自動車業界における量子コンピュータ

量子コンピュータは自動車業界にも大きな影響を与えると見られている。特に素材開発の領域で進化が見られそうだ。


《佐藤耕一》

日本自動車ジャーナリスト協会会員 佐藤耕一

自動車メディアの副編集長として活動したのち、IT企業にて自動車メーカー・サプライヤー向けのビジネス開発を経験し、のち独立。EV・電動車やCASE領域を中心に活動中。日本自動車ジャーナリスト協会会員

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