携帯電話のCPU IPで独占シェアを持つ英Armが、自動車向け専用のCPU IPとバーチャル開発環境を発表した。
新CPUは、データセンター向けの高度な技術を自動車でも利用できるようにしたもので、バーチャル開発環境によって実際にハードが登場するのを待たずに、クラウドやオンプレミスで開発を進められるとしている。
開発期間を最大2年間短縮できること、用途に合わせてさまざまなバーチャル開発環境から選べるなど、自動車のデジタル領域の開発手法を大きく変えることになりそうだ。
◆データセンター向けの高性能CPUアーキテクチャを自動車向けに
Armは半導体の設計専門の会社で、携帯電話用CPUのIP(Intellectual Property=論理アーキテクチャー)においては99%の独占シェアを誇る。同社のIPを基にAppleのMシリーズやAシリーズ、クアルコムのSnapdragonなどが作られている。
近年は成長が著しいデーターセンター向けCPUや自動車向けのSoC、マイクロコントローラーにも進出している。データセンター分野のシェアは10%だが、AmazonがAWS用プロセッサに採用し、既存のx86アーキテクチャからのリプレースを進めている。オートモーティブ分野ではADAS関連で50%以上、IVI(In-Vehicle Infotainment:車載インフォテインメント)で85%以上でシェアを持ち、マイクロコントローラーなども含めたオートモーティブ領域全体で2022年に40.8%のシェアだった。SDVに限らず、自動車のデジタル化において重要なプレイヤーだと言える。
今回発表された半導体アーキテクチャは以下の4分野5つだ。
「Arm Neoverse V3AE」は、データセンター向けに開発された高性能なNeoverse CPUをオートモーティブ分野のADAS(先進運転支援システム)向けにしたもの。自律走行のためにAIアクセラレーションなどに対応している。
「Arm Cortex-A720A」と「Arm Cortex-A520A」は、Armの汎用CPUアーキテクチャであるCortex-A(Arm V9ベース)で初となる車載用途プロセッサー。A720AはSDV(ソフトウェア定義型自動車)、デジタルコックピット、IVIをターゲットにしたプロセッサで、前世代のCortex-A78AEと比較して、点群変換や鳥瞰図構築において30%性能が向上しているという。A520AEは電力効率を重視し、幅広い車載ニーズに対応するとしている。SoCにA720AとA520Aを混載するような用途も想定している。
「Arm Cortex-R82AE」はリアルタイム処理に対応した Cortex-Rアーキテクチャで初めて64ビットに対応し、Cortex-A系などのアプリケーション・プロセッサとシームレスに連携する。
「Arm Mali-C720AE」は最大16個のセンサーに対応したISP(イメージシグナルプロセッサー)。ADAS用のマルチカメラ映像を、人間向けのデジタルコックピット(ヒューマンビジョン)とADAS用のコンピュータビジョンの両方に同時並列に提供することができる。
また、オートモーティブ向けのArm Compute Subsystems(CSS)を提供することで、ArmのIPを利用したハードを提供するメーカーがより効率的にシステム開発を行えるようになる。
発表当日に行われた発表会では、各プロセッサに安全機能が追加されたことが何度も強調され、SDVなどで車両のデジタルセキュリティが重視されている昨今の状況への対応を積極的にアピールしているようにも見えた。
これらの各アーキテクチャは、Marvell、MediaTek、NVIDIA、NXP、ルネサス、Telechips、テキサス・インスツルメンツなどのパートナーによって製品化され提供される。
◆SDVの開発を最大2年短縮できるバーチャルプラットフォーム
今回の発表でもっとも重要なのは、バーチャルプロトタイピングを可能にした、バーチャルプラットフォームの提供だろう。