自由なデータ流通を国内で実現するのが難しい理由【LCAが変える自動車の未来 第6回】

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自動車業界では今、製品やサービスに対して環境影響評価(環境アセスメント)の手法であるライフサイクルアセスメント(LCA)の導入が進んでいる。

本連載「LCAが変える自動車の未来」では、部品製造からリサイクルまでサプライチェーン全体での脱炭素化に向けて重要となるこのLCAについて、国内の現状と課題を整理し、今後の展望を探る。6回目となる今回は、データの流通に着目して先行する欧州での事例をまとめ、国内のデータ流通推進に向けた課題をあぶり出す。

データ流通には具体的な定義はないが、PwCでは「企業や業界を超えて、データが流通、活用されることで、経済発展や社会課題の解決が期待されるもの」と捉えている。データ流通のポイントは、特定の企業や業界の中だけでデータを流通するのではなく、多種多様かつ大量のデータが、政府や自治体など業界を超えて流通することにある。

◆カギとなるのは「国際的に自由なデータ流通」

データ流通が注目されている背景には、「Society5.0」のカギとして「国際的に自由なデータ流通の促進」(DFFT:Data Free Flow with Trust、信頼性のある自由なデータ流通)が提唱され、データ流通のニーズが高まっていることがある。Society5.0とは、仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する、人間中心の社会のこと。そのSociety5.0を実現するためには、「DFFT」の共通認識が必須だとされている。

DFFTのポイントは、(1)自由で開かれたデータ流通であること、(2)ビジネスや社会課題の解決に有益なデータが、国境を意識することなく自由に行き来できること、の2つにある。さらに、(3)データの安全・安心、(4)プライバシーやセキュリティ、(5)知的財産権に関する信頼が確保されていることも重要だ。

特に重要なのはDFFTの「T(Trust)」の部分だ。Society5.0もDFFTも日本政府が提唱している社会のあり方だが、現状では日本よりも海外の取り組みの方が進んでいる。

最も活発なのは欧州で、EUでは民間を含む安全なデータ流通を目指す「データガバナンス法案」を策定し、暫定合意をしている。また、欧州の統合データ基盤プロジェクト「GAIA-X」を立ち上げるなど、EU主導のインフラ整備が進んでいる。EUではGAFAなど米国大手IT企業によるデータの独占に危機感を覚えており、EU域内で生まれるデータはEU主導で流通させたいという思いがある。

米国は、データ流通に関しては自由主義だったが、2019年に「連邦データ戦略」を策定し、現在では公共部門に対してデータ価値向上やガバナンス体制構築を推進している。中国では、国が集権的にデータを集めて利用する動きがあり、顔認証監視カメラや社会信用システムなど、国民監視を目的とするデジタル社会基盤がトップダウンで発展している。

その一方で日本に目を向けると、コロナ禍の中で、国や自治体間の情報連携や給付行政の難しさなど、デジタル化への対応の遅れが露呈している。DFFTの発信国でありながら、リテラシーの低さやプライバシーへの強い懸念がボトルネックとなってデータ流通が遅延している状況にある。政府では、その遅れを取り戻すべく、2021年6月に「包括的データ戦略」を公開し、国主導でデータ流通を推進する姿勢を見せている。

◆国内自動車産業におけるデータ流通基盤をどう構築するか

GAIA-Xでは、EUの中で生まれたデータはEU内で自由に使えるように、データの機能や規格の標準化を目指している。そのGAIA-Xには、4つの目指すゴールがある。(1)データ主権(データを持つことの権利と責任)の確立、(2)特定サービスへの依存からの脱却、(3)デジタルサービスの透明性と魅力の向上、(4)イノベーションのためのデジタルインフラとエコシステムの創出、の4つである。方向性としては、第2のテックジャイアントを目指すのではなく、各企業が持つデータを有益に活用していくためのプロジェクトと言える。


《PwC Japan合同会社》

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