CASE革命・業界再編時代の業界M&Aの現状…日本M&Aセンター 提携法人部 小倉優耶氏[インタビュー]

CASE革命・業界再編時代の業界M&Aの現状…日本M&Aセンター 提携法人部 小倉優耶氏[インタビュー]
  • CASE革命・業界再編時代の業界M&Aの現状…日本M&Aセンター 提携法人部 小倉優耶氏[インタビュー]

サプライチェーン全体では圧倒的に中小企業の数が多い自動車産業。高齢化・後継者不在に伴う事業承継問題への対応、CASE革命による業界再編・事業再構築が急務と言える状態に置かれている。

中小企業庁が取り組む事業承継・引継ぎ支援事業の登録事業者でもある日本M&Aセンターは、中堅・中小企業のM&Aにおいて、譲渡企業と譲受企業のマッチング、交渉、諸手続きの支援、譲渡後のフォローアップなどを行っている。同社 提携法人部 小倉優耶氏に、自動車業界における中小企業の事業譲渡やM&Aの現状について聞いた。

小倉氏は4月14日に開催する無料のオンラインセミナー 自動車業界向け事業承継・M&A戦略~実際の事例から学ぶ~で、自動車業界のM&A戦略について講演する。日本M&Aセンターが手掛けた事例紹介も予定されている。

自動車業界のM&A

――高齢化が進む中小企業経営者の間では、後継者問題や事業承継問題がひとつの課題となっています。自動車業界も同様なのでしょうか。

小倉氏(以下同):少子高齢化、後継者不在の問題は他の業界と同じです。部品メーカーや町工場、整備工場などでも第三者譲渡(M&A)が急速に進んでいます。20~30年前は、この業界7、8割が親族継承でした。親が子どもに事業を引き継ぐパターンが一般的でした。しかし現在は株式の第三者への譲渡・売買が65%くらいと逆転しています。

もうひとつの特徴は、譲受企業の幅が広がっていることです。以前は、廃業や事業譲渡を考えている部品メーカーなどがあった場合、その譲受先は親会社、上場企業や大企業がメインプレーヤーでした。現在でもマレリや日立アステモのような大手による買収や再編事例もありますが、自動車業界のM&Aでも中堅・中小企業による譲受事例が増えてきており、中には売上1桁億円規模の譲受企業も珍しくありません。

――中堅企業どうしの買収、あるいは中堅企業が買い手となる買収となると、中小企業の事業承継問題や、市場での生き残りをかけた合併・業界再編とは違うようにも見えます。この背景はどう見るべきなのでしょうか。

事業承継問題を要因とするものは規模を問わず多くご相談を受けますが、将来的に労働人口の減少が予測されていることも要因だと思います。多くの企業が事業規模や商圏を広げるための成長戦略型M&Aを考えることが増えている印象です。中堅・中小規模の企業が資本の大きさの重要性に気付いて買収戦略のみならず譲渡も成長の選択肢として検討していることも要因のひとつでしょう。

自動車業界M&Aの特徴

――コロナ禍による変化もみられるのでしょうか。

はい。譲渡企業、譲受企業ともに変化が見られます。譲渡側でいえば、以前は業績や後継者不在が事業譲渡、株の売却が主な理由でしたが、現在は業績に問題なくてもM&Aの対象となっています。また、自動車業界以外からの買収、あるいは自動車業界が異業種の企業を買収するという動きも目立ってきています。これは、コロナ禍など経営環境の急速な変化によって先が読めない状況の中、既存事業とは切り離したリスク分散、異業種への業態転換などの戦略と思われます。

新規事業を始めるにしても、リソースやチャネル、事業ナレッジなどをいちから立ち上げるより、相手企業のノウハウを活用し拡大を狙うことでスピード感も上がります。

――自動車業界の中ではどんな業種でそのようなM&Aが増えているのでしょうか。やはり電動化やCASE関連が多いのでしょうか。

EVや電動化に伴う事業拡大、業態転換の動きはありますが、今言ったようなM&Aは、整備工場、中古車販売、リース業、カー用品などアフターマーケットに多く見られます。部品メーカーなどのM&Aも扱いますが、大手メーカーのサプライチェーンの中に組み込まれている企業に関しては、取引先や親会社の中で完結されることもあるようです。

したがって、弊社への問い合わせ、相談、案件はアフターマーケット系が多いですね。

事業承継やM&Aの注意点

――そのようなM&Aの場合、譲渡企業、譲受企業が注意するポイントはなにかありますか。

自動車業界に限った話ではありませんが、譲渡企業側の懸念で多いのは、オーナー社長が会社を売却したあとの自分の立場がどうなるか、といった売却後の変化に対する不安のようです。ただ、交渉によって決めるので多くは譲渡側の意向を汲んでいただけることが多いです。。オーナー社長は自社の株に関する意向を明確にしておくことが重要です。

もうひとつの不安は従業員の処遇だと思います。経営が変わることによってリストラされてしまうのではないかといった現場の不安もあるでしょう。これも、基本的には譲渡企業の体制を維持することが多いと思います。やはり企業の根幹は従業員なので、M&A後も従業員を大切にする譲受企業がほとんどです。

譲受企業が注意する点としては、買収企業のメーカーやフランチャイズ契約の内容です。事前の確認ポイントであり、怠ると買収後のトラブルになりやすい部分でもあります。チェーンの量販店、代理店などは要チェックです。契約によっては、オーナーが変わった場合、フランチャイズライセンスが無効になり、新規契約が必要ということもあります。

――双方が戦略的なM&Aではなく後継者問題がからむ場合、譲渡企業と譲受企業のマッチングや、そもそも売り手経営者の理解や交渉が難しいということはないですか?

基本的には弊社でお手伝いさせて頂く場合、売主様より譲渡のご相談を受けたうえで案件化を行い、候補先企業へご紹介していますので、譲渡の意思は固まっている場合が多いです。しかし当然我が子のように育ててきた会社の譲渡となれば、悩み、迷われることも多々ございます。ですが、従業員の雇用問題や会社の成長のために決断される社長様は多いです。

一方で、弊社のようなアドバイザーを付けずに相対でM&Aを実行されるお話も伺いますが、株価や譲渡後の体制等両社にとって最良な選択肢を見つけるためにも、適正な仲介事業者や金融機関に入ってもらうことは有効だと思います。

例えば、非上場企業の適正株価、資産評価、将来価値などの分析は難しいものです。双方と直接の利害関係のない仲介事業者の専門的かつ客観性のある分析・評価は譲渡企業、譲受企業にとっても重要です。

――譲渡企業・譲受企業探しだけでなく、適切な仲介事業者を見つけるのもM&Aでは欠かせないわけですね。本日はありがとうございました。

小倉氏が登壇する無料オンラインセミナーは4月14日開催 自動車業界向け事業承継・M&A戦略~実際の事例から学ぶ~
《中尾真二》

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